8期・46冊目 『ここは退屈迎えに来て』

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

内容(「BOOK」データベースより)
地方都市に生まれた女の子たちが、ため息と希望を落とした8つの物語。フレッシュな感性と技が冴えわたるデビュー作は、「R‐18文学賞」読者賞受賞作「十六歳はセックスの齢」を含む連作小説集。

東京暮らしに為すことなく地元に帰ったが、早々に結婚・出産している地元友人たちとの温度差を感じる30歳女性(「私たちがすごかった栄光の話」)。
一世を風靡した美少女タレントが二十歳を超えて芸能界を引退し、スタバ店員をしながら結婚願望を抱く。かつてのファンであった女性との奇妙な友情(「やがて哀しき女の子」)。
旧態依然とした実家を嫌い、家庭教師の女子大生のようなセンスの良い一人暮らしに憧れて東京に出ることを願う女の子(「東京、二十歳。」)。
高1の夏休み明けにクラスメイトたちが次々と初体験をしたことを聞いて、16歳のうちに何とかしないと焦る女子高生二人組(「十六歳はセックスの齢」)。等々。


収録された短編のうち、前半6編が20〜30歳女性、後半2編が女子高生を主人公とした地方女子の実態というか、きっと同じ立場・世代からすれば「あるある」感を醸し出す内容なのでしょうね。
私は年代も一回りくらい上の既婚のおっさんだし、一応首都圏の端っこで暮らして東京に通う立場ということもあって共感というのはあまり無かったのだけど、読み物としてそのあたりの心理描写は理解できて面白かったです。
ケータイもインターネットも無い時代の暇を持て余した十代の頃、そして地方の車が無い不便さなどもよくわかります。


歳を経るにしたがい己の限界を知って無力感や閉塞感に襲われたり、理想と現実のギャップのためについ「本来あるべき自分」を妄想してしまう彼女たち。
ここに登場する彼女たちは特別何かに秀でているわけでもなければ*1、取り立てて不幸なわけでもない。
現実に対して自分の平凡さを折り合いをつける際の葛藤みたいなのは年齢性別に関わらずあるのだろうけど、こうやって読むとなんか切ないですね。
そういえば、全編を通じて何らかの形で椎名という男性が登場します。
中高まではスポーツ万能でモテまくりで常に人の輪の中心にいた生活を送っていたが、その後はパっとしなくてフリーターを経てしがないゲーセン店長(ただし従業員は一人)。その後自動車教習所の教員として再就職・結婚もする、といういかにもな地方”リア充”。
短編ではあえて時系列を逆にして登場する趣向がなかなか面白いのですが、そのモテっぷりがかつての”非リア充”としては妬ましいかな(笑)

*1:一時期にせよカリスマモデルとなった”あかね”は例外だが