10期・70冊目 『百光年ハネムーン』

百光年ハネムーン (ふしぎ文学館)

百光年ハネムーン (ふしぎ文学館)

内容(「BOOK」データベースより)
平凡な生活に疲れ学生時代を懐かしく思う清太郎は、往時の行きつけのスナックに足を向けた。しかし、まさかそこで昭和42年の世界に紛れこんでしまおうとは。ノスタルジアに満ちた「1967空間」をはじめ、「おもいでエマノン」「梨湖という虚像」など、SF短篇の娯しみを満喫させる全12篇。発表と同時に古典となった、まさに珠玉のデビュー作「美亜へ贈る真珠」から、単行本未収録の最新作「トラルファマドールを遠く離れて」まで、梶尾SFの粋を初めて集大成した、リリカルロマンの傑作集。

様々な趣向を凝らしたSFロマン短編集であり、収録されているのは以下12編。
・美亜へ贈る真珠
・もう一人のチャーリー・ゴードン
・玲子の箱宇宙
・ファースト・オブ・フローズン・ピクルス
・夢の閃光・刹那の夏
ムーンライト・ラブコール
・トラルファマドールを遠く離れて
・一九六八空間
・梨湖という虚像
・おもいでエマノン
・ヴェールマンの末裔たち
・百光年ハネムー


宇宙ものもありますが、日常を舞台にしたちょっとした不思議な話が多くを占めます。
全部は紹介しきれないので、一部印象に残ったのだけ。
本書を読むきっかけとなったのがタイムトラベルを描いた「一九六八空間」。
サラリーマンとしての生活に疲れた三十代の男が学生の頃に通っていたバーに久しぶりに足を向けたら、いきなり過去に跳んでしまったという内容。
妻と出会うはずのイベントを断り、まったく新しい人生を送ろうとしたはずが・・・。
ちょっと強引な感じはしますが、まぁこういうハッピーエンドこそが著者らしいのかもしれないです。
もっとも可能性に溢れて輝いていたと思える学生時代への郷愁とか、人生の選択(もしあの時こうしていたら)はよくわかる気がしますね。
時間ものと言えば、不治の病を患った同級生の娘を励ますために男たちが時間を操作して怪獣の動きを再現する「ヴェールマンの末裔たち」はとても温かで良かったです。
表題作は世紀の発見である大和石(ヤポニウム)の効果で技術が飛躍的に発展した時代。
人の寿命も延びて、金婚式ならぬ結婚100周年の大和石式の宇宙旅行に招待されたとあるコンツェルンの総帥の話。
突飛な発想とロマンチックな結末が著者らしさではあるけれど、これも最後の展開が強引な気がします。
ほんわかハッピーエンドが多い中で「玲子の箱宇宙」は変わり種で印象に残りました。箱庭ならぬ箱宇宙を手に入れた女性が夢中になってしまうという話。
一昔前にありがちな家庭をまったく省みない自分勝手な夫と、決して自己主張しない物静かな妻という組み合わせ。しかし彼女が箱宇宙に魅入られた時から狂っていくという内容。
珍しく「笑ゥせぇるすまん」のようなブラックな感じでした。