6期・53冊目 『風が吹けば』

風が吹けば

風が吹けば

内容(「BOOK」データベースより)
「身の丈サイズでゆるーくやっていきたいと思う反面、ダサいもの、価値観に一ミリでも合わないものは受け入れたくない」。矢部健太高校二年生、夏休み直前。そんな彼が…。84年にタイムスリップ「つっぱり」メンバー達とのひと夏のふれあい。

いまどきの高校生・矢部健太が突然1984年にタイムスリップ。
そこでは2009年の健太が知るおじさんおばさんが健太と同世代の若者として青春を謳歌していた・・・。


章ごとのタイトルが80年代を代表する曲など*1から取られていることからわかる通り、当時の若者文化が非常にデテールに拘って描かれています。
いわば40歳前後のオヤジホイホイ青春小説。一応、80年代に十代の大半を過ごした自分としても懐かしいフレーズに溢れていました。
聖子ちゃんカット、特攻服、ゲームウォッチ、レコードレンタル。そして会話の随所に登場する当時のアイドルたちの名前。
髪型や服装からしてあまりに違いすぎる文化の違いに最初は戸惑う健太ですが、「面白ければなんでもいい」久保田という理解者を得て、その時代に馴染んでいきく過程がなかなか楽しいのです。そういう意味では本書を100%楽しめるかどうかで世代を選ぶかもしれませんけどね。


やがて健太が関わるグループや地元商店街が街の再開発計画のゴタゴタに巻き込まれていき、喧嘩やちょっとした恋模様もあったりして、クライマックスの果てに現代へと戻されるという展開。
戻ってみれば、タイムスリップしてダサくも熱い時を過ごした体験は一瞬のことで、前と変わらない日常が健太を迎えた。
と思いきや、きちんと1984年で過ごしてきた証が各所に見られるのが読者としては嬉しい。タイムスリップ前に書かれていた伏線も終盤にきて明かされます。
始めはあまり入り込めなかったのですが、読めば読むほどあの頃の気持ちを思い起こされて*2、物語に引き込まれてしまいました。


【以下、余談】
舞台となる時野沢市は東京まで私鉄で1時間以内。その割には周囲は田舎じみている点。航空公園がある点や西武ライオンズファンの存在など。そのモデルは埼玉県所沢市かと思われます。
また、表紙および本編イラストは牧野和子によるもの。本編でも重要な作品として登場する『ハイティーン・ブギ』と同じイラストというところが拘っていますね。

*1:「前略、道の上より」、「青春のいじわる」、「少女人形」、「咲坂と桃内のごきげんいかが ワン・トゥ・スリー」、「プロジェクトA」、「ハイティーン・ブギ

*2:この中で描かれるようなヤンキーにはあまり縁がなかったけどね