4期・23冊目 『パラレルワールド大戦争』

パラレルワールド大戦争 (角川文庫 緑 377-20)

パラレルワールド大戦争 (角川文庫 緑 377-20)

トンネルを抜けたらそこは過去だった。しかも昭和20年7月という太平洋戦争末期。
既に戦況は絶望的で、過去を知る立場としては1ヶ月もすれば終戦ではあります。
しかし、当時の軍としてはもはや趨勢を立て直すことは不可能とわかっていても、意地になって本土決戦に向かっていた時期でもあります。実際に天皇や政府を松代に建設中の地下本営に移す計画があって工事が進められていたのですから。
そこへ三十数年後*1の人々が現れたら?


たまたま取材で長野県の松代を訪れていた主人公のフリーカメラマン・仙波五郎は発見者の特権として、いわゆる報道記者として過去の世界を自由に行き来し、彼の目を通して当時の状況が描かれます。
仙波五郎ら現代人と当時松代で工事を監督していた軍人の出会いから始まって、徐々にこの不思議な現象がそれぞれの世界に広まっていきます。普通なら信じられないことですが、双方の知り合いだった人物たちが長い歳月を経たとは言え、本人と出会ったことですんなり受け入れてしまうのです。これもせいぜい戦後三十数年という設定ならではでしょうね。


報道によって戦争末期の悲惨な記憶が呼び起こされたのか、先祖にあたる人々(あるいは若き日の自分たち?)を救えという運動が盛り上がり、最初は食料援助から、そして自衛隊派遣と徐々にエスカレートしていきます。B29を撃墜する対空戦車や戦後の部品と燃料を供給されて本来の高性能を発揮する四式戦闘機・疾風など。そのへんは旧軍と自衛隊の対比が象徴的。
ただしかつて流行った架空戦記と違って著者の描くSFはただ日本を戦争に勝たせようというわけではありません。そこは最後まで読んでからのお楽しみ。オチが皮肉っぽくて笑えます。まさにパラレルワールド
ついでながら、ところどころに極端から極端に走る性質とか海外から見た日本人観とか寸評が挟んであるのが面白いです。

*1:物語の設定上は昭和5×年