5期・29冊目 『日輪の遺産』

日輪の遺産 (講談社文庫)

日輪の遺産 (講談社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
帝国陸軍マッカーサーより奪い、終戦直前に隠したという時価200兆円の財宝。老人が遺(のこ)した手帳に隠された驚くべき真実が、50年たった今、明らかにされようとしている。財宝に関わり生きて死んでいった人々の姿に涙する感動の力作。ベストセラー『蒼穹の昴』の原点、幻の近代史ミステリー待望の文庫化。

不思議な老人(真柴)と出会い、手帳を託された丹羽と海老沢。半信半疑ながらも読み進めていくと、そこには終戦直前に秘命を受けて隠した財宝について記されてあった・・・。
若き日の老人(真柴少佐)が奔走する過去と合わせて、二人が手帳に記された内容の調査が進んでいく展開となっています。
その過程で金原という地元の有力者が登場するのですが、これがまたアクの強い人物で財宝についても以前から承知している様子。果たして財宝は今も眠ったままなのか?つい先が気になって読むペースが速まります。


昭和20年7月から8月15日の終戦日にかけては短いながらも日本という国の岐路がどう傾くか微妙な時期でもありました。
敗戦が避けられぬ以上、日本再興の為に密かに運び出された丸秘資金。その運搬に使役された女学生とその顛末がややドラマチック過ぎる気がしないでもないですが、そういったエピソードがあっても不思議ではなかったりします。それゆえM資金を使った詐欺が絶えないらしいのですが、M資金といえば、戦後日本に乗り込んできたマッカーサーとその取り巻きの様子が非常にコミカルで笑えます。本作以前の『きんぴか』『プリズンホテル』路線の影響があるようですが、このあたりは悲壮感を漂わせる日本軍関係者との対比が目立ちます。
とにかく史実を織り交ぜ複数視点で描く終戦前後の描写が一番読ませるところですね。


物語の進行に合わせて現代に生きる二人の身に投射させて、読む者を過去の出来事に没入させてしまうのはさすがだと思いました。そこには彼らがそれぞれ女学生と近い年頃の子供がいるという設定も関係しているんでしょう。もっとも後半に行くと、この二人よりも戦後を生き抜いた真柴や金原らの人生の重みによる存在感の方が増してくるんですけどね。
戦争が終わって半世紀。その記憶は薄れて遠い世界のように感じられても、戦争が遺した傷跡も当時生きていた人々の想いも確実に存在するのだということを感じさせられる作品でした。