5期・28冊目 『七都市物語』

七都市物語 (ハヤカワ文庫JA)

七都市物語 (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
突如地球を襲った未曾有の惨事“大転倒”―地軸が90度転倒し、南北両極が赤道地帯に移動するという事態に、地上の人類は全滅した。しかし、幸いにも月面に難をのがれた人類の生存者は、地上に七つの都市を建設し、あらたな歴史を繰り広げる。だが、月面都市は新生地球人類が月を攻撃するのを恐れるあまり、地上五百メートル以上を飛ぶ飛行体をすべて撃墜するシステムを設置した。しかも、彼らはこのシステムが稼動状態のまま、疫病により滅び去ってしまったのだ。そしてこの奇妙な世界で、七都市をめぐる興亡の物語が幕を開くのだった。

SF的な設定のもとで未来の地球における架空戦史を描いた作品なんですね。田中芳樹は『銀英伝』や『アルスラーン』、中国史もの、『薬師寺涼子の怪奇事件簿』、と読んできた私ですが、こちらは名前だけなんとなく知っていただけで、初めて手に取ることになりました。実は横山信義や小川一水が寄稿している『七都市物語 シュアードワールズ』 が気になったので先に読んでみようかというわけなんですが。


未曾有の大災害によって、すっかり地形が変わってしまった地上に新たに建設された七つの都市。
しかし人が集まれば争いが生まれるわけで、相変わらず利己的かつくだらない理由*1で戦争に明け暮れる人類をまるで銀英伝の「後世の歴史家」のような冷徹な視点で記述しているのが特徴です。七都市物語というよりは七都市間戦史ですな。
戦争そのものはまるで敗者は敗れるべくして敗れたように愚かしさばかり目立つのですが、それは歴史視点で読ませているからかもしれず、あまり勝者の才能というか努力が伝わってこないのが欠点のように思えます。1章ごとに戦争の原因から経過、結末まで書かなければならないので、自然とあっさりとした展開になってしまうのかも。
だとしても、近代戦に欠かせないはずの制空権が、無条件に使えないという設定は面白い。登場する兵器は戦車・装甲車・各種軍艦からヘリや飛行艇まで現代の延長の様相でありながら、戦術的には前近代戦とあまり変わらないわけですからね。*2


作品の一番の見せ所は様々な癖のあるキャラクターたちなわけで、なかでもひょんなことから歴史の表舞台に出てしまいその才能を発揮せざるを得なくなった軍人と有り余る野望でもって世界を引っ掻き回す政治家。好対照な二つのタイプが物語の主軸といってもいいでしょう。このあたりは戦争そのものよりもキャラクター描写に重きを置いているのが著者らしいと言えます。なかでも世俗に対する毒のある台詞が目立ちますね。。
これは個人的な事情なんですが、思えば銀英伝を読んだ頃から20年近く経っているんですよね。思うに、発表された当時ならば無条件に楽しめたのかもしれないけど、今読むと修飾過剰な言い回しとワンパターンな俗物政治屋たちの造形が多少鼻についたような気がしますね。


ところで文庫収録されたものだけ読むと、続編が出ても不思議じゃない終わり方ですし実際出す気はあったのかもしれません。*3
でもたぶんこの著者のことですから、これだけ時間経った今となっては望むべくも無いですね。次は『シュアードワールズ』に行きます。

*1:現代の大きな紛争理由である民族や宗教に関してはシャッフルされているように思えるけど

*2:電信を封じられて、前線に伝令を走らせるも誤った指令が届けられたり、伝書鳩を用意すべきだったという皮肉を司令官が真に受けたり

*3:未収録短編はあるらしい