5期・36冊目 『七都市物語 シュアードワールズ』

七都市物語 シェアードワールズ (トクマ・ノベルズ)

七都市物語 シェアードワールズ (トクマ・ノベルズ)

出版社 / 著者からの内容紹介
西暦2088年、地球壊滅によりいったん地球外に暮していた人類が「汎人類世界政府」を樹立、2091年にいたり、再び地球に「降臨」し、綿密な計画の下に、各地に都市を建設するが……。田中芳樹氏の名作、「七都市物語」の世界を、気鋭の作家4人が競作!

続編が出るようで出なかった『七都市物語』(以下、本編)の設定を受け、4人の作家によってアナザー(サイド)・ストーリーとして編み出されることになった短編集。
実は本編刊行時から10年以上の月日が過ぎてしまっているのですが、自分自身としてはついこのあいだ読んだばかりなのて世界観が記憶に残ったままこちらも読めたのが良かったです。
収録されているのは以下の作品。
ジブラルタル攻防戦」小川一水
「シーオブクレバネス号遭難秘話」森福都
「オーシャンゴースト」横山信義
「もしも歴史に・・・・・・」羅門祐人
森福都だけは未読ですが、 横山信義はほとんどの作品を読んでいる御馴染みの作家であり、小川一水はここ最近お気に入りになった作家。羅門祐人だけはもう10年くらい前に架空戦記のシリーズを読んだことがあっただけで久しぶりでした。
全体的に各作家の特徴を活かした佳作揃いで、良い意味で七都市物語の世界観を活かしながら、且つ巧みに補完した内容に仕上がっていると思います。どちらかというとオリジナルキャラクターの方がメインとなっており、本編の主要人物たちはサブ扱い。そこは作品によって多少の差が出ていますね。

ジブラルタル攻防戦」

地球大転倒時の地殻変動に伴ない地峡と化してしまったジブラルタル周辺に運河を通そうという熱き土木技術者たち。と言ってもプロジェクトXのような感じじゃなくて、ニュー・キャメロットとタデメッカとの戦争に翻弄される開発機構(両国から人員が出ているので内部にも影響)が中心となっていて、主役の若き男女が衝突しながらも互いに理解を深めていく。
ジブラルタル周辺をめぐる両都市間の対立はやがて戦争に拡大し(ギルフォードやリュウ・ウェイも見せ場あり)、果たして海峡化計画がどうなていくのが見逃せません。様々な要素を盛り込みながらも、巧みにまとめるストーリー構成はさすがです。
それにしても本編は都市間の争いが激しくはあるものの、宗教や民族のくくりは重視されず、所属する都市に縛られてはいないのは羨ましいと言えますね。

「シーオブクレバネス号遭難秘話」

本編では背景としてさらりと触れられていた月世界住人。その子孫が持ち込んだロスト・テクノロジーを巡る話。
サンダラーがある多島海には少数部族が生き残っており、都市周囲の開発を巡っていて市と対立を深めているという設定。地球大転倒で大異変が起こったと言えども、地球の人類全てが死に絶えてしまったわけではなく、生き残りがいたというのはオリジナル設定ではあっても納得のいく話です。
そのテクノロジーの解明によって本編の設定が大いに変わるのでは、と思わせておいて意外な結末が待っています。

「オーシャンゴースト」

長年に渡って堅実な仮想戦記を書き続けてきた横山氏らしい作品ですな。制空権が制限された世界では、陸と海での戦いが主になるわけですが、そこをあえて派手な海上戦闘ではなく潜水艦狩りを持ってくるところがニクイです。*1
他6都市を敵に回して窮地に追い込まれたブエノス・ゾンデが某多都市間企業から提供された潜水艦部隊を使って補給線破壊を目論み、それに対抗するために駆り出された対潜部隊。どこかで見たような設定ではありますが、現場の人物を中心に緊迫感たっぷりに描いてますね。
それにしても敵弾が弾薬庫に命中、大爆発!はもはや著者の名物になっているな・・・。


関係ないですけど、「シーオブクレバネス〜」と本作を続けて読むと、飛行船部隊に対する温度差の違いが大きくて微妙ですねぇ。まぁ立場変われば見方も違うのは当たり前ではありますが。

「もしも歴史に・・・・・・」

高度500m以下という制限された運用の中で冷遇され苦心する航空業界の開発秘話を内部の政争を含めてユーモアをもって描く。
戦いがある以上、少しでも競争相手より優位に立とうという技術的なテーマは地味ではあるものの、ありえる話ではあります。それがトンデモ兵器となるとまた毛色が変わってきますが、そこは著者の特色を生かしたというところでしょうか。
ただ冒頭で個性ある研究所の面々が紹介されつつも、あまりそれが活きていないのが残念。それと唯一出てきた本編の主要人物である国防軍参謀長・クルガンがあまりにもイメージと違うのがいただけなかったですね。自分の中でクルガンは銀英伝のオーベルシュタインなみの能力ととっつきにくさを抱いていたのですが、この中では凡庸で話のわかる将官になってしまってるので。

*1:潜水艦は失われた技術であって、原潜どころか通常型でさえ大規模な開発・運用がされてないのにサンダラー軍が対潜部隊を運用しているのって変じゃない?というツッコミは残るが