横山信義 『烈火の太洋4-中部ソロモン攻防』

苦闘の末に米太平洋艦隊を撃破した連合艦隊は西太平洋を制圧、ニューギニアラバウルへと前進。海上戦力の激減した米軍は航空兵力を集中しこれに対抗する。
連合艦隊は新型航空機を投入、飛行場攻撃と並行して補給線を脅かす作戦を用い、戦線は膠着状態となった。だが、艦隊の再建を急いだ米艦隊は、反撃の準備をも進めていた。
最初の攻撃目標はラバウルか、ニューギニアか。山本五十六は新鋭戦艦「大和」「武蔵」を以て米戦艦部隊を迎え撃つことを決断した。

前巻に続き、ソロモン海の死闘を描いています。
史実においては昭和17年から18年にかけてガダルカナル島を巡って死闘が続きました。序盤は優勢に立っていた日本軍でしたが、消耗戦に引き込まれてしまい、ただでさえ劣る戦力をすり減らしていったのは周知の通り。
本作においては山本五十六GF長官の強い意向でポートモレスビー攻略やFS作戦は実施されず、ラバウルで守備を固めてそこから先には出ることのない方針です。
史実とは逆に米軍に消耗を強いた上で勝利を重ねて世論に厭戦気分を作らせようという目論みですね。
米軍はソロモン諸島のちょうど真ん中あたりにあるムンダに基地を建設。
そうするとラバウルは複数方向から圧力がかかられてしまうので、ムンダの航空基地化と補給を進める米軍と妨害する日本軍との間で無数の戦闘が生起するのでした。

基地同士の航空戦。補給船団に対する潜水艦の攻撃。そして健在な機動部隊による強襲。受けて立つ米軍の太平洋艦隊には正規空母が残っていないため、商船改造の護衛空母インディペンデンス級の軽空母が中心です。
戦力的には正規空母を有する日本優勢ですが、守る米軍は多少基地を叩かれても持ち前の機械力で回復させて、粘り強く戦います。

航空戦が日本軍の戦術的勝利・戦略的敗北に終わった後、先に回復した戦艦を繰り出して、ニューギニア方面ラエへの攻勢に出ます。
日本軍も戦艦大和と武蔵をもって迎撃にあたるのでした。


開戦時期が早まったことでシリーズ当初こそ新鮮さがありましたが、日米開戦後はいつもの展開って感じになりましたね。
目新しいのは複座戦闘機の月光がエンジン換装によって性能が上がり、日本海軍には珍しい戦闘攻撃として活躍しているあたりでしょうか。
ワンショットライターという不名誉な仇名がついた一式陸攻に置き換わりそうです。*1
それから水上戦闘が前と続いて昼戦となり、航空機の活用によって様相が変わってきているのが特徴でしょうか。

欧州方面ではイギリスとの航空戦に敗れてドイツ本土が空襲を受けているあたりは史実と同様。
ただしイギリスは日本との戦いで損害を受けたために地中海の制海権を喪失。補給が妨害されなかったためにアフリカ方面は枢軸軍有利に進み、ロンメルスエズまで到達しています。
もっともスエズ運河占領までに至ってなく、ジブラルタルでは英米が攻勢に出たところで終わりました。
今後は連合軍の怒涛の反撃は必至なわけで、どのように収めるのでしょうかね。

*1:乗員も少ないので撃墜時の乗員喪失も少なくなる。攻撃後は戦闘機としての自衛能力もある。ただし長距離攻撃には向かない。