横山信義 『高速戦艦「赤城」1 帝国包囲陣』

昭和一六年。満州国を巡る日米間交渉は、互いの主張が平行線をたどったまま打ち切られる。
米国はダニエルズ・プランのもと、四〇センチ砲装備の戦艦一〇隻、巡洋戦艦六隻をハワイとフィリピンに配備。アジア艦隊を増強して軍事的圧力をかけ続けた結果、西太平洋の緊張は極限に達していた。
この強大な国力に比するべくもなく、日本は戦艦の建造を断念する。海軍の主力を空母と航空機とすることで活路を見出そうとするが、航空機で戦艦に勝てるものなのかは確証が得られていなかった。
日米戦争が勃発すれば、敵の大艦隊が一気に日本本土へ迫り来るであろう。
連合艦隊は、この事態を食い止めることができるのか!?

横山信義氏の新シリーズです。
第二次世界大戦をテーマにした作品ばかりでマンネリと言われて久しいものの、安定した刊行間隔と筆力で読者を楽しませてくれるのは確かですね。

今回は海軍条約の時点で改変が試みられています。
アメリカはダニエルズプラン通りの戦艦群(戦艦10隻、巡洋戦艦6隻)を主戦力としている世界。国力に劣る日本としては八八艦隊計画をそのまま実行するわけにはいかない。
そこで戦艦は長門・武蔵に続く巡洋戦艦赤城で打ち切り、空母を揃えて航空主兵で対抗しようとする。建造途中だった加賀・土佐は空母に改装されます。
つまり、史実よりも早めに大鑑主砲主義を諦めて、航空主兵に舵を取るわけですね。それなのにタイトルが高速戦艦「赤城」とは。まぁ、機動部隊に随伴できるし、時には水上戦もできるし、獅子奮迅の活躍を見せるということでしょうか。

世界観としては中国大陸(主に満州)を巡って日米が対立を深めていくのは史実通り。しかし、欧州は大きく変わっています。ソ連が建国早々に崩壊してロシアとなっていますし、ナチスドイツの台頭もなし。つまりスターリンヒトラーが退場しているので、欧州方面は平穏です。
史実では海軍条約と合わせて日英同盟が解消されていますが、ここでは大英帝国との同盟が継続していて、電子・航空などの技術が導入されているのが心強いところです。
英仏蘭との関係が良好なので、資源は東南アジアから輸入できるのですが、アメリカとの関係が悪くなるとフィリピンが喉に刺さった棘のような存在になります。
作中ではフィリピンには戦艦を始めとしたアジア艦隊が増強されているわけで。もし開戦となったら、どう対処するか?
史実では奇襲となりましたが、この世界では開戦の引き金を引いたのはアメリカであり、ほぼ同時にマーシャル・トラックが攻撃を受けてしまいます。開戦前から準備をしていたのは確実。
とにかく、石油やゴムといった戦略物資を東南アジアから運んでこなければならない。そのためにはフィリピンの無力化は切実というわけで、台南の基地航空隊と空母6隻を基幹とする機動部隊がフィリピン攻略を目指す展開です。

史実で航空機が戦艦を沈めたといっても、イタリアのタラント港、真珠湾ともに停泊したいたところ。作戦行動中ではマレー沖海戦が有名ですが、上空支援はなく補助艦艇も少ない状態でした。
大艦隊の前に航空機がどれくらい攻撃能力を発揮できるのかが見もの。著者のことですから、そう簡単に戦艦を撃沈できるとは限りません。
陸上機ですが、イギリスの双発戦闘攻撃機が採用されているように、いろいろと考えているんじゃないかと思いますね。