横山信義 『荒海の槍騎兵5-奮迅の鹵獲戦艦』

マリアナをめぐる決戦に勝利を得られなかった連合艦隊中部太平洋最大の根拠地であるトラックを失った。環礁を占領した米軍は大航空兵力を送り込み、難攻不落の航空要塞を建設する。次の戦場はマリアナかフィリピンか。おそらく、この戦闘で日本の命運は決する。だが歴戦の空母は撃ち減らされ、艦上機搭乗員の補充もままならない連合艦隊には米艦隊と正面から戦う力はすでに失われていた。新司令長官小沢は、わずかな勝機に賭けて、機動部隊を囮として砲戦部隊を突入させるという作戦を命じた――。

前巻での機動部隊同士の激突はほぼ痛み分けとなりました。
ただ、日本側は開戦以来の活躍をしていた正規空母が撃沈。貴重な搭乗員も多数犠牲になったのに対し、米軍で失われたのは軽空母のインディペンデンス級のみ。後方から機体と搭乗員を補充してトラック基地を攻略。
つまり、物量で押した米軍が戦略的勝利を収めたのでした。
アメリカ軍としてはこのままマリアナ諸島を攻略し、最新鋭のB29を配備。そこから日本本土に大空襲を繰り返していけば、勝利は確実とみられました。
しかし、史実との相違点はノルマンディーの上陸戦失敗とルーズベルトが大統領選に敗北したこと。
政治的事情もあって、中部太平洋はトラックの要塞化のみ。侵攻ルートとしてはマッカーサーの要望を受け入れてフィリピンと決定したのでした。
主戦力に劣る日本軍としては、今までのような機動部隊同士の決戦では勝つ見込みが薄いと判断します。
小沢治三郎連合艦隊司令長官は機動部隊を囮として強力無比な敵の機動部隊を釣り上げ、その隙に大和・武蔵を中心とした戦艦部隊をレイテに突っ込ませて、上陸部隊を撃滅しようと計画するのですが・・・。


状況は史実のレイテ海戦に近いですが、日本軍の戦力はマリアナ海戦時よりも良い状態であると言えます。この世界ではソロモンやニューギニアにおける消耗がなかったせいもあるかもしれません。
とはいえ、機動部隊は正面切っての航空船を避け、艦載機のほとんどを戦闘機(紫電改零戦混在)に絞っているし、防空特化の戦艦(レパルス改め大雪)と巡洋艦(古鷹、衣笠、大淀)、駆逐艦(秋月級)が守りを固めています。
受け身一方の戦闘では大鳳が不運な爆沈もなく持ち前の頑強さを発揮しましたし、史実よりもよっぽどマシな防空戦を行い、多数撃墜した描写があります。
しかし、それでもエセックス級10隻による米軍の波状攻撃は防ぎきれませんでした。著者の最近のシリーズの中では、正規空母が被害を受けて沈んでいく方でしょうね。
紫電改の数をもっと揃え、太平洋戦争末期の米軍並みに磁気信管付き高角砲やボフォース機銃でもあれば別だったのかもしれませんが、史実よりマシ程度に済んだのは公平な結果でしょうか。
今回も米軍が執拗な攻撃をしかけたので、夜間での水上砲戦が発生。戦艦・大雪が38cm主砲を放ち、巡洋艦を撃沈するという珍しいシーンがあります。
空母の約半数が沈む犠牲を払ったのと、全体指揮官のハルゼーの判断によって、戦艦部隊は海峡までわずかな被害のみで接近することができました。
おそらくシリーズ屈指の山場になるであろう、戦艦同士の海戦は次巻になります。
果たして海峡の出口でT字で待ち構える米軍に対して日本軍がどう対応するか?
今まで出番のなかった北上・大井の名があることから、酸素魚雷による雷撃*1があり得るようですが、それだけじゃないかなぁ。
それからノルマンディーの上陸戦失敗とソ連が欧州席巻しそうな勢いを受けて焦るイギリスが日本との単独講和に動きましたね。そろそろ戦争の落としどころが見えてきました。

*1:射程距離が長いと命中率が落ちるし、かといって接近するとボコボコにやられそうだし。