大原省吾 『首都圏パンデミック』

内容(「BOOK」データベースより)
感染力、毒性の強い新たなウイルスが長崎で発生。体力のないお年寄りらから罹患して、高熱や下痢、嘔吐を引き起こし、死に至らしめる。その新型ウイルスが蔓延した飛行機が東京に向かう。感染者を助けようとする機内の医師、治療薬を探す研究者、首都圏封鎖も視野に入れる政治家―。未曽有の脅威と闘う人間を描いたタイムリミット・サスペンス。

東京都内で何者かに追われている様子の製薬会社研究者・碓井が不審死を遂げ、その謎を追う刑事の八代。研究者は重大な秘密を握っていて排除されたのではないかと八代は考えて会社を訪問しますが、ていよくはぐらかされてしまいます。
タイでは記憶を無くした日本人男性・新庄が現地の兄妹と巡り合い、いろいろあった末に偽造パスポートを用意してもらい、空路で日本を目指そうとします。
その頃、長崎の小さな島で今までにない新型インフルエンザが発生。感染力と毒性が強くて、罹患した患者は高熱や下痢、嘔吐を引き起こし、次々と死んでいきます。
ただし、不思議なことに一週間ほどでウイルスは自然消滅。他の地域に波及することはありませんでした。
そこで政府は事実を伏せて幕引きを図ります。
しかし、日本を目指していた新日本エア726便では高熱に苦しむ乗客が発生。乗り合わせた女医の喜美花は症状はインフルエンザであるものの、あまりに異常さに戸惑います。
次々と同じ症状を訴える乗客が発生。一人だけの手にあまっていたところ、医療の知識があることがわかり意を決した新庄(偽名を名乗っていた)の協力を得て、事態に対処しようとするのですが……。

パンデミックを取り上げた小説はかつての核戦争と同じく「もしも」という仮想状況を描いていたのですが、現実に2020年から世界的な新型コロナウイルスの流行に見舞われているだけにかえって現実味を帯びてきたように思います。
本作は世界最大の製薬会社にて研究の過程で生まれてしまった強力なインフルエンザウイルスが登場するのですが、醜い陰謀によって首都圏が危機に晒されるという展開です。
新型コロナウイルスもきっかけは人災が疑われているだけに洒落にならない内容ですね。
患者が次々と発生し、数十人単位で死亡が出てしまった726便の運命はいったいどうなるか?
途中の国際空港に降ろそうとするも、感染を恐れた当該国の許可が降りません。
最終的に国は非情なる決断を下します。
そこで鍵となるのは乗り合わせた新庄が持っていたアタッシュケース
製薬会社の研究センターに勤めていたという彼が記憶を取り戻せば、その中身が解決の糸口になるかもしれない。
しかし、新庄の脳には記憶を取り戻したら破裂するコイルが埋め込まれているという。
後半から終盤にかけて実にスリリングな展開を見せるわけで、目が離せませんでした。
事件の真相を追い求めるためには手段を択ばない八代刑事。旅客機の中で懸命な治療を施す医師の2人など、登場する人物の思いと行動がよく描かれていた上、納得がいく結末を迎えました。
ただ、危急時に総理大臣が頼りないのが日本らしいというか……。きっとアメリカで書かれた小説であれば大統領が毅然として決断を下すのでしょうねぇ。
一点だけ思ったのはタイトルと内容には若干相違があるということです。おそらく目を惹くために大袈裟なタイトル付けたでしょうが。