10期・68冊目 『レイク・クローバー』

レイク・クローバー

レイク・クローバー

内容(「BOOK」データベースより)
ミャンマー奥地の湖で、天然ガス探査技師が死亡した。わずか六時間で、何の兆候もなく突如ミイラ化し命を落とす。しかも感染者は死に際、他人に襲いかかるという―。日本人研究者、鷲尾佑二は、原因究明のため壮絶な現場へ向かう。極秘探査中、致死率100%の寄生虫が発生。そして50人の作業員が、アメリカに見捨てられた―戦力はたった三人。残された人々を救えるか。超弩級エンターテイメント。

民主化前のミャンマーの離島で発見された天然ガス田。
アメリカ−ミャンマー間の国交は無くともエネルギー・メジャー企業ミルズベリーが拠点を設けて発掘作業が進められていました。
ある日、付近の湖(レイク・クローバー)に釣りに出かけた探査技師の一人が帰宅した翌日にミイラ状態となって変死しているのが発見。
急きょCDC(アメリカ疾病予防管理センター)より日本人の寄生虫研究者・鷲尾佑二を含む先遣メンバーが派遣されるも、新たに感染者が発生。しかも死に際に近くにいた人に襲いかかって噛みつくという行動に出たという。
しかし政治的配慮から表立った救援活動はされず、現地に残されたメンバーだけで対応せざるを得ないのでした。
作業員のサイト内は自己完結されたシステムであるため、唯一外に出て作業員が真っ先に感染したことからレイク・クローバーが怪しいと見てその感染源を探るのです。
しかし湖上生活を営むマタン族という原住民がいて、日常的に湖の水に触れている彼らがなぜ無事なのかという謎が立ちはだかるわけですね。
一方、ミャンマー国内に特殊工作員の派遣と回収を行った後に東シナ海を進む原潜バァファローでも現地に潜入した工作員から例の寄生虫による症状が発覚。
狭い船内で感染が広がることを苦慮した艦長の判断により工作員たちの区画を封鎖。そして本部からの指令で沖縄に向かいつつ、原因究明のためにアメリカ陸軍伝染病医学研究所(USAMRIID)の研究者を受け入れるのですが・・・。


本作の脅威となっているのが新種の寄生虫です。
もともと寄生虫というのはまだまだ未開拓の多い分野で、発見されていない種はもちろんのこと、発見されていてもその詳細に謎があったりするそうです。
当然のことながら対応策も限られているとのこと。
本作に登場する寄生虫(新種の旋毛虫)は血液を介して人間の体内に入りこむと急速に繁殖、体内を食い破り、1〜3日程度で死に至らしめる恐ろしいものです。
さらに最後に脳を乗っ取って新たな寄生先を得る行動を取るところが脅威です。
ただしそれは部外者に限っての話で、豊かな自然に溶け込んだマタン族の暮らし、その背景には湖に棲む寄生虫とは切っては切れない繋がりがあったという点がユニークではあります。
感染者の描写に迫力があり、謎の寄生虫疾病によるサスペンス小説としては興味深く読めました。
ただ、「超弩級エンターテイメント」とうたいながらも、描かれる場面は極めて限られており、最後は小奇麗にまとまってしまったなという印象です。
最近『キャリアーズ』『コブラの眼』といった本格パンデミック小説を読んでいた関係で、ウイルスと寄生虫との違いはあれど内容のスケールからいって尚更そう感じてしまったのかもしれません。
いろいろと謎を残したまま幕を閉じてしまったのも不満が残る要因でした。