12期・50冊目 『不死症』

不死症 (実業之日本社文庫)

不死症 (実業之日本社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

山奥の製薬研究所で謎の爆発事故が発生。泉夏樹は一命をとりとめるも全ての記憶を失っていた。研究所の同僚・黒崎ら生き残った仲間と脱出を試みる夏樹だが、その眼前に、理性を失い凶暴化した人々が突如襲いかかってきた!?息呑むアクションと隠された禁断の真実…最後の1頁まで驚きの連続!常識を揺るがす究極のバイオホラー×ミステリー。

出先で時間を潰す必要があって、久しぶりに本屋でじっくりと新刊本などをチェックした時に見つけました。
ゾンビパニックということで惹かれて読んでみたのですが…。
いろいろと細かい部分を抜きにすれば半分くらいまでは勢いで読めました。
肝心の人を襲う感染者たちの詳細や冒頭の爆発の原因とか、記憶喪失になった原因とか、夏樹や黒崎の過去とか、追々納得のいく説明がされるのだと信じて。
後半に入ってからですね。だんだんと読む気が失せてきたのは。


・夏樹と黒崎を中心とした生き残った人間と、感染者たちとの戦いに無理がありすぎる。
格闘経験のある羽田がいきなり襲いかかってきた感染者を投げ飛ばしたのはわかるとしても、その後生存者(若い男女と老人のたった3人)が数十人のリミットが外れた感染者たちと戦って防ぎきるなんて。しかも第二派の襲撃では一番戦力になる黒崎が抜けて、敵の数が増えるという、ますます不利というか絶望的な状況で一人も倒されないなんて、あまりに都合良すぎる。
・感染者に傷つけられてから発症するまでが読んでいた感覚では羽田は数十分から一時間程度、片や黒崎は夏樹が感染を無効にする薬を取ってくるまでの長い時間経過しており、差がありすぎ。個人差があるとは記述されているけど、ストーリーの都合で無理が生じている。
・この手の作品はフィクションであっても科学的説明がきちんとされていることが根拠を与えるものだけど、生物・医学的知識に詳しくない私でも首をかしげるほどの拙い説明で強引に進めていってしまった。
・感染を打ち消す薬を散布後、夏樹の説得によって基地を囲んでいた陸上自衛隊の部隊*1の指揮官が単独で調べにやってくる。それがまず軽率だし、いくら平穏なのを確認して安心したとはいえ、任務中に飲酒するという非常識さ。
・助け合う中で惹かれあう夏樹と黒崎が悪い意味でもどかしくてイライラする。黒崎は以前から夏樹のことを好きだったように思えたが、特にそんな心情や過去の説明は無いまま唐突に結ばれる。


全体的に思いつきと勢いで書いてしまった感がありますね。
その分、この手の作品にあるはずの科学的根拠はいい加減で、人物描写は薄っぺら*2、ストーリーにも無理が生じてしまったようです。
これが被験者を主人公にして、あえて原因や治療などは首謀者死亡により闇の中、感染者との戦いや仲間との人間関係などに重点を置けばまだ楽しめたかもしれない。
だけど、問題の発端たる研究者を主人公にしたのならば、不死薬開発の核心についてはいい加減に済ませてほしくはなかったですね。
言っちゃ悪いけど、ここ一年内では随一の駄作としか思えませんでした。
amazonのレビューによると、初版では総理大臣が銃を持って乱入したらしいですね(笑) さすがにそこは改訂の際に削除された模様。

*1:包囲は厳重で脱出は絶対に不可能なほど非常に練度が高い部隊だと指揮官は言うが、登場するのは戦車だけで詳細が見えてこない

*2:不老不死という、いわゆるタブーに挑むだけの妄執というか、天才ならではの狂気を見せてくれたらよかったのに、伝わってくるにはごく普通に頭の良い女の子という感じだったのが残念