11期・23冊目 『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』

内容(「BOOK」データベースより)

駿河湾で揚がった巨大ウナギを食べた人間が食中毒にかかった。原因はウナギの体内に残留していたレアメタルパラジウム非鉄金属を扱う会社の社員・斎原は、そのウナギが日本の資源確保の切り札になると確信し、生息地を追ったが…(「深海のEEL」)。科学技術に翻弄される人間たちを描く、現代の黙示録。

「深海のEEL」
駿河湾で捕れた体長2mに及ぶ巨大ウナギ。
絶滅に瀕している国産ウナギの代替品となるかと思いきや、巨体すぎて難しい。
いくつかは実際に鰻の蒲焼として店に出されたのですが、食べたら食中毒を起こしてしまう。
それはウナギの体内に溜め込まれていた希少金属パラジウムのせいだった。
日本の主要産業にとって必要不可欠な希少金属が国内で取得できるということで一大プロジェクトが動き出します。
フランク・シェッツィング『深海のYrr』のオマージュとなっていることがわかります。
日本の主要産業の救世主となる可能性を秘めた巨大ウナギを巡っての悲喜劇。
内容的には深刻なのですが、どこか軽妙で笑えてしまうのが不思議です。
謎に包まれたウナギの生態と現代日本が抱える様々な問題が巧妙に組み合わされているのが見事だと思います。
回転寿司が好きな人にとってはちょっとショックではありますが。


「豚と人骨」
マンション建設の予定地の地下から大量の人骨が発掘。
それは縄文時代のものであり、しかも若い女性ばかりであった。
いったい何があったというのか?
その後、発掘作業に関わった女性が揃って腹痛を訴えて、奇妙な寄生虫がいたことがわかる。それは縄文時代の遺跡に埋まっていた寄生虫の卵が雨によって蘇ったのであった。
謎多き古代ミステリーと現代に蘇った感染性寄生虫の恐怖という組み合わせが秀逸な作品。
展開によってはパニック小説にも成り得る内容です。
また都市部での遺跡発掘の厄介な面もよくわかりますねぇ。


「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」
出向していた他社の男性からのホワイトデーのプレゼントと思って身に着けた携帯ストラップ。
その夜から不審なラジコンカーにストーカーされる彼女の受難が始まる。
どこに行ってもどれだけ離れていてもつきまとうその機械はいったい何を目的としているのか?
これもかの有名なSF作品からタイトルが取られているのがわかります。
最初のホラー的な内容と意外な事実が明かされるあたりが映画『ターミネーター』を思わせます。
オチこそハッピーエンドですが、実際にこんな目に遭ったらトラウマものですねぇ。


「エデン」
寺の跡取りの若者が家を継ぐ最後の日のパーティで違法ドラッグに手を出してしまい、当局から逃れるために一夜を共にした白人女性の手引きで人里離れた村に避難する。
そこは何十年も長き渡ってトンネルを掘り進めている閉ざされた村だった。
現代文明から取り残されて、過酷な自然環境で途絶された村において半ば強制的に生活せざる得なくなった青年の境遇は悲惨ではあるものの、いつの間にか馴染んでいく様に不思議な心地よさを感じました。
「エデン」というタイトルが言い得て妙。最後に村を出てゆく主人公家族たちの行く末が気になりました。


いずれにしても短編にしてはテーマが奥深くて組み合わせも巧妙で、長編にしても読み応えありそうな内容ばかりでしたね。