7期・24冊目 『完璧な涙』

完璧な涙 (ハヤカワ文庫JA)

完璧な涙 (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
生まれてから一度も、怒ったり喜んだり悲しんだりしたことのない少年、本海宥現。家族との感情の絆を持たない宥現は発砲事件にをきっかけとして、砂漠の旅に出た。砂漠には、街に住むことを拒絶する人々、旅賊がいる。夜の砂漠で、火を囲み、ギターをかき鳴らし、踊る旅賊の中に、運命の女・魔姫がいた。だが、突如、砂の中から現われた、戦車のような巨大なマシーンが、宥現と魔姫の間を非情にも切り裂く。それは、すべてのものを破壊しつくす過去からの殺戮者だった…。未来と過去の争闘に巻き込まれていった少年・宥現を描く本格SF。

生まれつき感情表現を一切したことのない主人公・宥現(ひろみ)が夜中に自室のガラスを割り続けるという異様なシーンから始まります。
実は主人公らが住むのは環境激変後の未来の地球において、銀妖子という謎の小さなロボット的な存在が作った街で、食糧から資材に至るまで銀妖子がどこからか調達し作られた街で人間は生かされている。
割ったそばから再生されてしまうのを見た宥現は父のライフルで銀妖子を撃つが、何も変わらず逆に家を追い出されて、砂漠の遺跡で働くことになる。
そこで旅賊と呼ばれる盗賊の一味と魔姫という女性と出会うのですが、遺跡から発掘され復活した戦車の形をした自律型戦闘兵器に命を狙われて、時空を超えた不思議な流浪の旅に出ることになるのです。
戦いの中で兄や魔姫を失うも、涙を流すことができない宥現。喪失感は理解できても感情的に動かされないもどかしさがあります。
やがて旅に出た宥現は一人銀妖子の存在しない世界を探します。
死者が生者の如く生きる街で生まれ変わった魔姫と再会し、朽ち果てた街で両眼のそれぞれが別々の世界に見える老人と出会ったり、果ては現代日本のような街中で過去と未来が入り乱れる様を見たり。
執拗な戦車の追跡をかわしながら続く旅は生と死・時間軸が目まぐるしく変わる世界観もあって翻弄されました。どんなピンチに陥ろうが冷静に分析する宥現にはなんだかなぁと思いましたけどね(笑)*1
何のために生きているのかわからず家族でさえ持て余していた少年・宥現が旅を通じて愛する人・魔姫を得て己を知り、世界を知って成長してゆく様は感動ものです。感情を持たずに組み込まれたプログラムのまま動く兵器と感情を失った己を同一視しようという試みが独特ではありますが。

*1:恐怖や焦りといった感情とも無縁だから仕方ないか