11期・13冊目 『流星ワゴン』

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

内容紹介

38歳、秋。ある日、僕と同い歳の父親に出逢った――。
僕らは、友達になれるだろうか?
死んじゃってもいいかなあ、もう……。38歳・秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして――自分と同い歳の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。やり直しは、叶えられるのか――?「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた傑作。

一種のタイムトラベル小説として興味を覚えて購入しておいたのですが、なんかタイトルに覚えがあるなぁと思っていたら、一年ほど前にドラマ化されていたのですね。
ドラマはほとんど見ないから知らなかったです。


主人公・永田一雄は妻と13歳の息子の親子三人で暮らしている38歳。仕事はリストラされて、家では息子がひき籠って暴力をふるい家庭崩壊しているというどん底状態。
崩壊のきっかけが息子・広樹の私立中学受験の失敗。公立中に進んだが、イジメを受けてしまったこと。
妻・美代子はかなり前からテレクラでゆきずりの男との浮気を繰り返しており、息子の家庭内暴力の頃から家庭を省みず頻繁に朝帰りしていて、離婚を申し出る始末。
何もかもうまくいかなくて、このまま「死んじゃってもいいかなあ」と思って駅のロータリーに座り込んだ時、スーっと赤いワゴン車・オデッセイが止まったのでした。
誘われるままにオデッセイに乗ると、そこにいたのは5年前に免許取り立て直後のドライブにて交通事故で死んだはずの橋本義明と健太の親子。
なぜかオデッセイは青信号ばかりの夜の街を滑るように進み、主人公にとって大事な場所へと案内するのです。
それは一年前の新宿。そこで妻が見知らぬ男と歩いていたのを見かけた場所でした。


序盤の主人公の境遇からしてそうですが、とても重苦しいです。
それでいて、まだ不幸になる前の自分自身の戻ったのに、怖気づいて未来を変えるようなことをせず指を咥えて見逃していくさまがとてももどかしい。
いったい何のためにそこに行ったのかと思ってしまいます。
でも単なるタイムトラベルと違うのは、末期癌で死ぬ間際のはずの父・忠雄が同じ年齢の姿で登場したこと。
主人公が中学生の頃、金融業に手を出して人が変わってしまった父と深い溝ができ、和解することなく離れてしまったのでしたが、現れたのはそうなる前の父でした。
関係としては親子ですが、同い年のために他人には”朋輩”の「チュウさん」となる。
このチュウさんが絡んだことがきっかけとなって、父親として気づけなかった広樹の悩みが浮き彫りにされて、徐々に父子関係に改善の兆しが見えてくるのがいいですね。
親と子って互いにわかりあえているようで、実は肝心なところでずれていることに気づかないというのはわかります。
一雄と広樹だけでなく、一雄と忠雄、そして実は義理の関係であった橋本父子と三人の父子のそれぞれの行く末が物語に合わせて変化していくのが醍醐味と言えますね。
あとがきにある通り、まさに父親になったから書けた作品だというのも納得。
自身が父となってみて、改めて自分が子供だった時の幼さに恥ずかしく思ったり、新たな父親の印象が見えてくることがあるというのがわかります。
そういう意味でも主人公に対して感情移入しやすかったです。


その一方で一雄と美代子の夫婦間についてはもやもや感が残ったままでした。
元から浮気性であったわけでもないのに、衝動的に夫以外の男を求めたくなるというのですが、そこに至るまでの心理的な要因や葛藤が掘り下げられてない上に息子に対する愛情も感じられない*1ので、美代子には悪い印象しか持てませんでした。

*1:あくまでも一雄視点なので省かれただけなのだろうが