11期・12冊目 『幻視時代』

幻視時代 (中公文庫)

幻視時代 (中公文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

文芸評論家の矢渡利悠人、彼の高校の後輩にして小説家のオークラ、編集者の長廻の三人は、立ち寄った写真展で、ある一枚の写真の前に釘付けとなった。18年前の大地震直後のその画面には、瀕死の恩師・白州先生と大学生の悠人、そして一人の少女が写っていた。少女の名は風祭飛鳥。悠人の同級生であり、淡い初恋の相手…。しかし、大地震の4年前に起きた「女子高生作家怪死事件」の被害者で、この時すでに死亡していたはず―!?心霊写真なのか?いや、飛鳥が生きているのか!?22年の時を超え、悠人ら三人が超絶推理の末、辿り着いた迷宮入り事件の全貌と、驚愕の真相とは!?書き下ろし長篇ミステリ。

冒頭、18年前の大地震発生直後を収めた写真に写っていたのは、その当時から遡ること4年前に小説家として鮮烈なデビュー直後に自宅で死亡していた少女であった。
果して彼女は幽霊となってこの世に現れたのであろうか?


鵜久森高校の2年生・矢渡利悠人は同じ文芸部の同級生・風祭飛鳥に惹かれるようになります。
悠人の母が大学生時代に顧問の白洲と同級生でなおかつ同人誌に小説を投稿する仲間だったことが判明。
幼い頃に亡くなった母の知られざる過去でしたが、それがきっかけに亡き母の遺稿を読む機会と同時に飛鳥とも話す機会に恵まれます。
そして2年生の終わり際、最後の部の活動として、短編を部の会誌に投稿することになっているのですが、読むと書くのとでは大違い。
いざ原稿用紙を前にするといっこうに進みません。
そんな中で締切が迫ってきた時期、悠人は母の遺稿の中で、陽の目を浴びていなかった幻の原稿を見つけます。
白洲でさえ存在を知らないこの原稿ならば、丸写ししてしまっても誰にも気づかれないのではないか・・・?
そうして悪魔の誘惑に従ってしまった悠人。
一方、飛鳥は応募した小説が新人賞を受賞し、見事小説家デビューを果たします。
やがて現役高校生作家としての話題を集めるようになり、単行本化やデビュー作の映画化といった話まで進んでいた中、三本目の短編を郵送した直後に自宅で刺された上で放火されるという変死を遂げてしまったのでした。


メインとしては高校時代の悠人と飛鳥の出会いから色々な出来事があった末に飛鳥の変死。
それが解決されないまま世間から飛鳥の名は消えても悠人の心の中に傷を残したまま大学4年になって、帰省した悠人に白洲からの突然の告白(大地震が起こってその時の怪我が元で白洲が亡くなったために途中までで終わったしまった)、
そして終盤、文芸評論家となった矢渡利悠人が高校の後輩で小説家のオークラこと生浦蔵之介の新作の解説を担当することとなって、以前から顔見知りの編集者・長廻玲と共に故郷を訪れた際に写真展にて偶然18年前の大地震発生直後を収めた写真を目にし、そこに写っていた風祭飛鳥の謎を解くという流れになっています。


高校時代の終わり頃、問題の原稿(飛鳥が苦心惨憺の上に仕上げた短編)を学校でコピーするためにざっと目を通した白洲の表情で、なんとなく何があったのか予想はついてしまいました。
でもそこに至るまでに不可解な現象の謎解きおよび亡き白洲の真意に辿りつくまでが二転三転し、惹きこませるほどに面白いのです。
なんか主人公よりもオークラのキャラクターが強烈で印象に残ってしまいますが(笑)


人生を変えるほどの影響を与える小説。そういったものに出会うのはなかなか稀なことですが、本来は陽の目を浴びなかったはずの遺稿が意図せず二人の若者(その存在を知らなかったはずの白洲も含めれば三人)の人生に大きな影響を与えたというのが皮肉ですし、創作の奥深さを感じてしまいますね。
ただ、読み終えてみてタイトルがあまり内容にそぐわない気がしました。
移りゆく時代と、霊が関係するために「幻視」したのかもしれないですが、白洲と飛鳥が抱いた苦しみや死の直前の想いとか、色々と余韻の残るラストだけにそちらを意識したタイトルにしてほしかったですね。