10期・32冊目 『ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈1〉接触編』

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈1〉接触編

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈1〉接触編

内容(「BOOK」データベースより)
20XX年―白昼の東京銀座に突如「異世界への門」が現れた。「門」からなだれ込んできた「異世界」の軍勢と怪異達によって、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した銀座。この非常事態に、日本陸自はただちに門の向こう側『特地』へと偵察に乗り出す。第3偵察隊の指揮を任されたオタク自衛官の伊丹耀司二等陸尉は、異世界帝国軍の攻勢を交わしながら、地形や政体の視察に尽力する。しかしあるとき、巨大な災龍に襲われる村人たちを助けたことで、エルフや魔導師、亜神ら異世界の美少女達と奇妙な交流を持つことになる。その一方、「門」外では『特地』の潤沢な資源に目を付けた米・中・露諸外国が、野心剥き出しに日本への外交圧力を開始する。複雑に交錯する「門」内外の思惑―二つの世界を繋げる「門」を舞台に、かつてないスケールの超エンタメファンタジーが、今、幕を開ける。

『戦国スナイパー』柳内たくみのデビュー作、それも元はWeb小説として執筆されていたのが人気が出て書籍化・漫画化までされている作品としては知っていたのですが、このたびようやく手にすることになりました。
中世ヨーロッパ風の世界を舞台に剣や魔法とかエルフとかドラゴンとかが登場するファンタジー作品。
ゲームやアニメではお馴染みで、私自身は別に嫌いではないのですが今まであまり小説として好んで読む対象ではなかったです。
それが『戦国スナイパー』が面白かったということと、十代の頃に多大な影響を受けた『戦国自衛隊』に通じる自衛隊異世界ものとしての興味もあって読んでみようと思ったわけです。


現代日本(それも東京の真っただ中の銀座!)と異世界が門(ゲート)を通じて繋がってしまい、それどころかアチラから大挙して軍勢が攻め寄せてきたものだから平和な都会が阿鼻叫喚と化してしまったというのが冒頭の設定。
多くの犠牲者を出しながらも警察、そして自衛隊の活躍によって掃討に成功。逆に今度は特別地帯(略称:特地)と名付けたゲートの向こう側へと赴くことになったのです。
もちろんそこはこの災厄を巻き起こした相手が交渉可能な国家ではないため、武装犯罪者集団を制圧・確保してその罪を問うという、あくまでも国内問題として扱う名目であるのですが。
そんな中でもともとオタクであった陸上自衛隊の三尉・伊丹耀司は非番の日に事件に巻き込まれてしまい、「このままだと夏の同人誌即売会が中止になってしまう!」という動機から皇居への避難民誘導など事態収拾に動いた結果が(本人の意に反して)「二重橋の英雄」という賞賛と二尉への昇進を手に入れることに。
そのまま特地への部隊に参加し、さまざまなトラブルに巻き込まれながらも特地で出会った人たち(特にヒロイン級とも言えるが金髪碧眼エルフのテュカ・魔道士レレイ・神エムロイの使徒ロゥリィ)と共に奮闘してゆくという内容です。
いわゆる熱血勇者タイプじゃなくて、本人は穏やかにというか怠けて暮らしたいのにトラブルを招いてしまう体質で周り(特に女性)に振り回されてしまう。本人はそれを嘆くが本気を出すと並はずれた能力を発揮するタイプの主人公。銀英伝でいえばラインハルトじゃなくてヤン・ウェンリーですな。


1巻では”帝国”による最初の侵攻、そして諸国連合軍を集めたゲート近辺(アルヌスの丘)での攻防(待ち構えていた自衛隊により完全撃破)の結果、異世界側が戦闘不能状態となり、次第に戦ではない形で異世界と人類が接触することで互いを知り、理解してゆくことになっていきます。
そこには第3偵察隊として個性的な部下を率いる伊丹耀司、そして帝国側は皇女で私設騎士団を率いるピニャ・コ・ラーダがメインとして流れを作っていく役割になっています。


ファンタジーとミリタリーの融合という新鮮さだけでなく、人種を超えた個性的なキャラクターも活躍して、充分惹き込ませる内容ですね。すぐに続きが読みたくなりました。
まぁ元々そういうのに興味がある人の方が抵抗無く受け入れやすいでしょうか。
『戦国スナイパー』と同様、会話は軽めで状況説明は硬めという硬軟織り交ぜた文章はこちらでも見られました。
自衛隊としては充分見せ場はありますが、単に現代兵器最強!ってならないところがらしいかな。
それに特地派遣に関する野党・マスコミの態度、各国の思惑も含めた政治描写にも大きく割かれていることが複雑な世界観を物語っていますね。*1
気になったのがゲートを設置したであろう帝国側の開戦前の思惑とか事情があまり書かれていないこと。*2
特に異世界を繋ぐゲートについては、大掛かりで特殊な魔法を使用したのではないか、そういう特殊な技術が帝国の強みとして出てこないのかと思ったのですが、そのへんは今後書かれるのかと期待。


一方通行であるタイムトラベルものと違って、限られたスペース*3ながらも常時繋がっていて補給を受けたり人や機材の行き来ができるのは強みですな。
実際、後からヘリやF4ファントムまで分解・組立により活用されています。海自だけ出番が無くて可哀想。
これがどこかの国でいえば十倍返しで特地に入り次第攻撃一辺倒になりそうですが、さすがに防衛以外の戦闘をそうそうしないわけで。
今後は二つの世界の交流が深まっていくのでしょう。そういう展開はやはり期待せずにはいられません。
ただゲートがあるのは日本国内とはいえ、異世界に繋がっていて、その先に何があるのかは気になるのは確か。特地だけでなく、こちら側でも今後一悶着ありそうです。

*1:Webの記載ではもっと毒があったようで、書籍化に伴い弱毒化されている模様

*2:実は予め一般人を数名拉致して調べていたらしい

*3:戦車2台が並んで進んでいるから片側二車線のトンネルというイメージ