10期・33冊目 『ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編』

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編

内容(「BOOK」データベースより)
圧倒的な軍事力を後ろ盾に、『特地』を統治する帝国との講和に乗り出した日本政府。その一方、冴えないオタク自衛官伊丹耀司ら特地偵察隊は、異世界住人たちとの絆をますます深めていく。そんな中、心を病んだエルフのテュカを救うべく、伊丹は異世界で猛威を振るう巨大炎龍の撃退を決意する。やがて近代兵器を駆使した壮絶な戦いが幕を開けた―。

ゲートの存在するアルヌスの丘では伊丹耀司が連れてきてしまった特地の民*1が暮らすためのキャンプが自活を目指していく過程で街として発展。
伊丹らと皇女ピニャ主従との出会いの場所であるイタリカの街との交易が始まったり、人口増加に伴い食堂や日本から持ち込まれた品々を販売するPXといった店舗(店員としてイタリカから派遣されてきた亜人たちを雇用)が増えて自衛隊員が利用したりして、交流が盛んになっていきました。
更にピニャ仲介による非公式ながらも帝国との講和への動きも始まりました。
そんな中で新たなフロンティアとしての期待を込めて各国(特に中国とロシア)は日本にゲートの開放を迫るのですが、都心に存在することから日本はあからさまな(軍事力を伴う)介入を拒絶。
一方で特地における拠点アルヌスの丘を管轄する自衛隊派遣部隊は情報収集に余念が無かったのですが、手負いの炎龍のよる被害が及んで部族滅亡の危機に瀕したダークエルフ部族のヤオの懇願に対して、帝国外に位置するために介入は余計な摩擦を呼ぶとの判断から受け入れることができなかったのですが・・・。


大規模な戦いは無く、ゲートを越えて東京を見てきた皇女ピニャらの骨折りにより帝国と日本の相互交流が進み、というか帝国の貴族たちも自分たちがどのような相手と戦っていたか理解が進んで講和への道を進み始める様子が描かれています。
しかしそうは簡単に話が進まずに、両世界で複雑な動きを見せるところが面白さの一つになっているんですね。
その代表的なのが帝国の皇帝長男ゾルザルの登場。ガキ大将がそのまま大人になったような我儘ぶり。馬鹿かと思えば利口のように振る舞うもやっぱり馬鹿のようで、だけどその地位のせいで台風のような存在ですな。
それだけでなく、彼に仕えるウォーリアーバニーのティーレが独自に動くことで暗い影を落としていそう。


そして後半のヤマ場は紆余曲折(資源獲得の建前とか)の末に決まった炎龍退治。
この炎龍が通常の弾丸を受け付けない硬度の鱗を持つという通称「空飛ぶ戦車」。
その戦闘は本当に手に汗を握る場面の連続でした。
かつて炎龍の襲撃(1巻)によってエルフの村が全滅し、唯一の生き残りのテュカはそのトラウマのためか、目の前で死んだはずの父が実在するかのように振る舞っていました。次第に伊丹を父親と同一視して「お父さん」と呼ぶのですが、本当の父とのギャップに苦しみそれが悪化していったのです。
かつて暴力を振るう父親を刺殺した母がその罪悪感からまるで生きているように振る舞っていて、自身の未熟ゆえに罵ってしまったことがある伊丹。精神を病んでしまった母と同じ道を辿らせまいと努力する。
そういった主要キャラクターの掘り下げがストーリーに繋がっていくさまが今回の見どころでしたね。
それにしても伊丹はモテすぎです。だけど本人はそっちにあまり関心ないようだし、どうなることやら(笑)

*1:1巻表紙に出てるテュカ・レレイ・ロゥリィらと関わるきっかけになった炎龍襲撃により逃げ出してきた避難民中心