6期・1冊目 『時空の旭日旗―我ら、未来より』

時空の旭日旗―我ら、未来より (歴史群像新書)

時空の旭日旗―我ら、未来より (歴史群像新書)

内容(「MARC」データベースより)
2008年から1935年にタイムスリップした「あずみ丸」の未来情報で生まれ変わった大日本帝国に、アメリカが宣戦布告! 満州での油田開発、レーダー監視網の整備、ミサイル兵器の開発…。果たして日本は勝てるのか?

架空戦記でのタイムスリップとしては、『連合艦隊ついに勝つ』を皮切りに檜山良昭の大逆転シリーズが定番で、他に逆撃シリーズ*1とか『青き波濤』あたりが記憶に残っていて、トンデモ系も含めて昔はそれなりに読んだものです。
去年タイムスリップ系小説を調べていて本作を知り、読んでみることにしました。


冒頭では海洋調査船・あずみ丸が2008年から1935年にタイムスリップ。
自衛隊の部隊や武器装備ではなく、あえて科学的技術の粋を集めた船と民間人(海洋だけでなく、工学やレーダー、医療の専門家、更にこういう時に便利な戦史・軍事マニアまでいるところが準備いい)を1935年(昭和10年226事件の前年)にタイムスリップさせたあたりが戦争というより昭和史そのものへの介入を試みていることが明らかで、興味をそそるところです。


駆逐艦とのファーストコンタクトの後、横須賀鎮守府所属の井上成美大佐が乗船した際に船内の戦史DVDを見せて未来から来たことを信じさせることに成功。タイムスリップものでは未来からきたことを信じさせるのに苦労するものですが、映像の力は強いですね。あと陸軍よりも海軍軍人の方が技術に依存する部分が大きいので、その差は認識しやすいのでしょう。
そして、船長一家の祖父が海軍の侍従武官として勤務していた繋がりから政府陸海軍要人のみならず昭和天皇にまであずみ丸の情報が一気に中枢部に広まり、日本政府を動かすところまでが急テンポで進みます。タイムスリップ直後としては僥倖に恵まれ過ぎる気がしないでもないですが。


翌年の226事件の決着を契機に大きく日本の舵取りが変わっていきます。対中講和と満州自治、韓国独立により史実では泥沼化していた東アジア情勢は安定。あずみ丸から持ち込んだ有形無形の新技術によって、油田や鉱山の発掘を始め、日本の経済状況が大きく好転したおかげで、国内状況も史実より緩やかになっています。*2
そのあたりは、部分的に突出していても民需などの裾野は大きく遅れていた日本の技術全体に大きく刺激を与え、たちまちのうちに成長していく様が面白い。


かくして帝国主義的な膨張策より経済優先・外交融和の現代的政策で大きく変わった日本ですが、世界は相変わらず。欧州大戦へ介入する口実を探っていたアメリカによる呉への先制攻撃は史実の裏返し。航空機では史実の一歩先にいっていた為、強烈な反撃に成功するものの、港湾と民間人への損害も大きかったりします。
史実を教訓にした早期警戒網や建造計画の変更を進めるものの、実際の戦争では何が起こるかわからないこと、歴史を超えることの難しさまで描いているのは好感度ありますね。
まだ1巻では戦況としては大きく変わっていないですが、英仏蘭による宣戦布告で風雲急を告げる東南アジア情勢*3がどうなるのか、日本だけでない技術の進歩*4が見られたりと気になる要素があります。
ちなみに既に新刊では入手しづらいため、2巻以降もamazonで入手することになるそうです。


ちょっとだけ、内閣→内角とか、戦力に入っていない翔鶴の飛行隊が登場したりとか、わかりやすい誤りは直して欲しかったですけどね。

*1:主人公がHするとタイムスリップするとか、今から考えると変な設定(笑)

*2:ちなみに首相は良い意味で昭和天皇の意を汲む鈴木貫太郎

*3:資源は中国大陸北部から入手していて、台湾を攻撃された直後にフィリピン空襲した以外は手を出していない

*4:F2FとF4Fの実戦登場が早まっている他、エセックス級の建造も史実より数ヶ月早まりそう