13期・52冊目 『感染領域』

内容(「BOOK」データベースより)

九州でトマトが枯死する病気が流行し、帝都大学の植物病理学者・安藤仁は農林水産省に請われ現地調査を開始した。安藤は、発見した謎のウイルスの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」の協力で進めるが、そんな折、トマト製品の製造販売会社の研究所に勤める旧友が変死。彼は熟さず腐りもしない新種のトマト“kagla(カグラ)”を研究していたが…。弩級のバイオサスペンス、登場!

農家で栽培していたトマトが赤く枯れてしまう病気が流行。
主人公である帝都大学の植物病理学者・安藤仁は農水省の担当者(実は元恋人)と共に調査を行って、これが未知の病原体によるものであると判断。
感染を防ぐためにも、やむを得ず焼却処分とします。
持ち帰ったサンプルの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」に分析を依頼する一方で、仕事上で密接な繋がりのある種苗メーカー・クワバに勤める同窓生・倉内との会合の直前に彼が不審死を遂げてしまいます。
警察によると自殺の可能性が高いというのですが、倉内が自殺する理由など考えつかず。
とにかく、倉内が進めていた、熟さず腐りもしないという不思議なトマト“kagla(カグラ)”を研究を助手の久住と共に引き継ぐことになります。
ある日突然、大学の農場が荒らされ、数日後には安藤自身が拉致されてカグラの原木を渡せと脅迫を受けてしまうのでした。
トマトの枯死はクワバの種子が原因と判明。ウイルスに感染したトマトの木が開花して花粉を飛ばすと、他の植物にも拡大することから、日本の農産業は一大危機の瀬戸際に立たされることになります。
偶然のアクシデントよりカグラがウイルスへの耐性を持つことがわかって、急遽対策を進めるのですが・・・。


今まで未知のウイルスによってパンデミックが発生するパニック小説は色々と読んできました。中には昆虫や動物が大量発生というのもありましたが、今回のように植物が特定のウイルスに感染して死滅していくというのは珍しかったです。
直接人間に害はないとはいえ、食料に関わることだけにその恐怖は大きいものです。
牛や鳥がウイルスに感染して全滅したというニュースはたまに聞きますが、実は植物(作物)がかかる病害というのも深刻。いちいちニュースにならないほどありふれているわけです。
内容が内容だけに専門的な用語が頻繁に出てはきますが、完全に理解はできなくても、なんとかついていける程度。
本作では日本の農業を支配しようとする外国企業による陰謀が存在し、サスペンスあり、ハードボイルドあり、ロマンスありと楽しませてくれますね。
それに主人公に協力する「モモちゃん」にしろ、農水省の元恋人にしろ、一癖も二癖もあって、強烈な印象を与えてきます。
上司である教授が捉えどころが無い、なかなかいいキャラクターだったのですが、出番が少なくて残念でしたね。
惜しむらくは、パニックものとしては尻すぼみで、終盤の展開が急ぎすぎたあたりでしょうか。
表面的には主人公が最初から最後まで泥をかぶり続けて*1終わりというのもすっきりしない点でもありました。

*1:中傷メールや名前を騙った犯人もわからずじまいだったし