不手折歌『亡びの国の征服者2 魔王は世界を征服するようです』

内容(「BOOK」データベースより)

家族の愛を知らぬまま死に、“もう一つの人類”の侵略に脅かされる王国で新たな生を受けた少年ユーリ。彼は騎士家の名家であるホウ家の跡取り息子として、王女であるキャロルや魔女家の生まれであるミャロらと共に、騎士院での生活を送っていた。そしてユーリは生まれて初めて、“もう一つの人類”―クラ人と出会う。亡命してきた宗教者であり、クラ語講師であるイーサ。ユーリは彼女からクラ語を学びながら、「敵国」への理解を深めていくのだった。数年の時が流れ、ある目的から学業の傍ら事業を興すことを決めたユーリ。前世の知識を元に植物紙の製品化を目指す彼は、協力者を得ながら試行錯誤を繰り返していく。しかし事業が成功した矢先、王都を裏で牛耳る魔女家の魔の手が迫り…!?のちに「魔王」と呼ばれる男は、静かに、しかし確実に覇道を歩む―。「小説家になろう」で話題の超本格戦記譚、待望の第2幕!

1巻の感想およびweb原作へのリンクはこちら。
2巻は騎士学校における出会い、もしくは雌伏編と言えましょうか。
キャロルの母にして、シャルタ王国の女王に拝謁して、天然痘治療の褒章として特許およびその第一号を得ることを願いました。
学校の単位が順調すぎるほどに取得できてしまったために午後の時間が空くユーリはそこで遊び惚けることなく、将来を見越して事業を起こすことを考えていたのでした。
元になるのは曖昧な前世の知識。
国からの報奨金を含めて軍資金が貯まったことで、実家に頼ることなく、商業のプロに任せることを考えます。それは学友ミャロの伝手で元・商家の手代・カフ。
第一歩として製紙事業を始めるにあたり、この国のあらゆる経済活動を牛耳っている魔女家に対抗するための特許でした。
出会いといえば、クラ人亡命者でクラ語教師イーサ先生。入学してきた従姉妹シャム*1のルームメイトであるリリー先輩といった後々重要な役割を果たす人物との出会いもありました。
web版を読んでいた時の記憶はほぼ消えていたので懐かしくて良かったですね。

「超本格戦記譚」というにはまだ序章の段階です。
敵国であるクラ人といっても一つにまとまっているわけではなく、史実の欧州みたいに言語が違っていたり、いくつかの主要国家があったり、宗教的にも主流と異端とされている流れがあったりする。
こういった部分を略して冒険や戦いに出てしまう作品もありますが、本作では丁寧な説明が入っているのが好印象。
まぁ、製紙や印刷始めとする事業関係は興味を持てる人ならいいけど、戦記を期待している人からすると、やや本筋から離れすぎな気がしなくはないですね。
それでも、言語や聖書の具体例をあげているあたり、手本はあるにしても良く作ったものだと思います。

印刷事業といえば、どのような本を作るか?
ここで女子の通っている学院では、大がかりではながら、密かに写本されていると聞き、売れっ子作者を訪ねます。
そこで父親が卒業を前にして退学せざるを得なかった事情とか、ユーリ自身が本のモデルにされていることを聞いてしまい…。
女子の学校の闇の部分というか、この父にしたこの子ありというか。なかなか複雑ですねぇ。
それと、ようやくユーリはミャロが男装した女子であることに気づかされました。
周りはとっくに知っていたパターンですね。このへんの鈍感さは物語の主人公らしい(笑)

ラストは王女キャロルの市井視察を兼ねたデート。web版よりも加筆されているようでボリュームあって楽しめました。
2人の仲が順調に発展していっているのは良いのですが、このままキャロルが為政者として成長して改革を進められたとしても、やはり七大魔女家は大きな障害になることは間違いなく、争乱は避けられなかったでしょうね。

*1:前世の知識を持つユーリと違い、天才的頭脳の持ち主ゆえに学校でも随一の成績を収めるかと思えば、理数系に偏り過ぎて、学校では程々の成績というのが面白かった。