道造 『貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士2』

現代日本から男女の貞操観念が真逆の異世界へ転生し、その世界では珍しい男騎士となった辺境領主ファウスト
彼は第二王女ヴァリエールの初陣を成功させ、反逆者カロリーヌの遺児マルティナを自らの誉れのために助命嘆願し引き取った。
ポリドロ領に帰還し穏やかな日々を送るファウストだったが、またも王都に呼び出され、今度は隣国ヴィレンドルフへ和平交渉の使者として赴くことに。
リーゼンロッテ女王から、和平交渉の成否は「冷血女王」――ヴィレンドルフのカタリナ女王の心を斬れるかどうかにかかってると助言を受けるが……?
貞操が逆転した世界で“誉れ”を貫く男騎士の英雄戦記、待望の第二幕!!

本編が始まる前、ファウストにとっては侵攻してきたヴィレンドルフの軍勢を相手に第一王女アナスタシア、王女相談役のアスターテ公爵と共に戦い、敵の司令官にして英雄たるレッケンベルとのすさまじい一騎打ちの結果、見事討ち取るという大戦果をあげた戦い。
背が高く筋骨隆々のファウストは母国アインハルトでは男性の理想対象から外れているため、陰で嘲笑されまていますが、戦友となったアナスタシアとアスターテ、さらには女王リーゼンロッテからはモテるという現状を招いています(本人はまったく気づいていない)。

さて、1巻に続く2巻は停戦状態にある隣国ヴィレンドルフとの和平交渉が始まります。
ヴィレンドルフの現女王カタリナは幼い頃は感情の起伏に乏しく、何を考えているかわからない子供との評でした。しかし、相談役としてレッケンベルを迎えて教育を受け、長姉を一騎打ちで殺して王座を掴み取ったという人物。
彼女は停戦期限を前にしたアインハルトからの和平交渉を撥ねつけていました。ヴィレンドルフ側が望むのはファウスト
どうしてかというと、アインハルトとは違い、ファウストはヴィレンドルフの女性にとっては理想の男性像。英雄レッケンベルを討ったとはいえ、礼を尽くして遺体を返したのも好印象だったからです。

というわけで、正使は第二王女ヴァリエール、副使ファウストとして和平交渉に臨みます。国境線を越える前にファウストを待っていたのは一騎打ちを所望するヴィレンドルフの女性騎士たちでしたが。
ファウストは一騎打ちを拒むことなく、連戦連勝。99勝無敗で王都入りします。
正使であるはずのヴァリエールは空気と化し、ほぼファウストとカタリナとの会話で交渉が始まります。冷血との異名を取るカタリナの心をいかにして溶かすか。交渉の鍵はそこにかかっているのでした。


本書は異世界転生・貞操逆転という流行り要素を入れながら、骨太な戦記といった内容で人気を博していますね。史実の中世欧州の戦術、宗教、日常的な慣習などをしっかり描かれています。それでいてファウストの周りの女性たちも魅力的で、読んでいて楽しい。
1巻の終わりでファウストが命を救ったマルティナが側付きの騎士見習いとして登場。
子供とは思えない聡明なマルティナが今後絡んでくるのが楽しみです。

さて、今回は敵国(であった)の女王カタリナとの対決?がクライマックスとなります。ここでもファウストの朴訥とした人柄と想いがカタリナを動かすのですよね。
貞操逆転世界の男性ではまず見られないファウストの行動が見ものです。
それから、今後の大きなファクターとして中世欧州世界では避けられない大きな脅威。史実でユーラシア大陸を席捲したモンゴルがこの世界でも存在するわけで。
これを知っているのと知らないとでは大きな違い。唯一の男性騎士という立場でファウストの行動が今後の鍵を握ると言っていいでしょう。

単行本特別収録の外伝は今回も二つ。ファウストの母マリアンヌ視点の感動的な話。彼女はいかにして貴重な男子であるファウストを騎士として鍛えたのか。
もう一つはIFで、カタリナと恋仲となったファウストが自重を辞めて、本能のままに行動したら? ヴィレンドルフ側から見た傾国の美男が積極的に動いたらこうなるよな(笑)って内容です。