13期・3冊目 『二重螺旋の悪魔(上)』

二重螺旋の悪魔〈上〉 (角川ホラー文庫)

二重螺旋の悪魔〈上〉 (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

遺伝子操作監視委員会に所属する深尾直樹は、ライフテック社で発生した事故調査のため、現地に急行した。直樹はそこで、かつての恋人・梶知美が実験区画P3に閉じ込められていることを知る。だが、すでに現場は夥しい血で染め上げられた惨劇の密閉空間に変質していた…。事故の真相に見え隠れするDNA塩基配列イントロンに秘められた謎。その封印が解かれるとき、人類は未曾有の危機を迎える!恐怖とスリルの連続で読者を魅了する、極限のバイオ・ホラー。

本当ならば上下巻を読み終えた後に感想を書くつもりだったのですが、あまりにもスケールの大きな長編であることと、上巻と下巻でガラリと環境が変わるので、別々に書くことにしました。


バイオテクノロジーの発達により、遺伝子置き換え製品が世に溢れ、それをビジネスとする企業が隆盛を誇る中、急激に業績を伸ばしてきたライフテック社にて事故が発生したことを掴んだ遺伝子操作監視委員会より深尾直樹が乗り込んできます。
深尾直樹は同業者としてかつて独自の研究を行っていて、DNA塩基配列イントロンを解析したことによる重大な発見と行うと同時に同僚を死なせてしまった過去がありました。
そして今回、ライフテック社においても、閉鎖された実験区画P3において十名以上の職員たちが連絡を絶っており、その中にはかつての恋人・梶知美がいました。
自身が起こしたのと同様の事故が発生した確率が高いと睨んだ直樹は人を襲う化け物を生み出してしまったP3の中に立ち入ろうとするのでした。


上巻の前半はイントロンに隠された秘密を解き明かしたかと思いきや、それは恐ろしい化け物を呼び起こしてしまうことなり、その対処のために秘密裡に設立されたC部門およびエージェントとしてスカウトされた深尾直樹の戦いがメイン。
直樹はかつて望まぬ形で別れた恋人・知美とよりを戻すことに執着しており、彼女がライフテック社の実験区画P3に閉じ込められたままであることを知って強引に突入するのです。
しかし、無事発見した知美は敵「C」*1が作り出したクローンのようなもので、本物の知美は死亡していました。
敵の技術を使えば知美を蘇らせることができると確信。今後の生きる目的にもなるのでした。
そんな風にライフテック社で発生している”現在”と直樹が経験した過去が交互に進行していくのですが、後半では「C」との戦いで重傷を負った直樹は戦線復帰の可能性が絶たれてしまう。
後半では厳重に閉じ込められていた「C」が逃亡の末に暴れ出し、建物に侵入した自衛隊の特殊部隊は全滅。施設内に保管されていた菌をばらまかれる前に生存者ごと爆破して焼きはらうかの決断が迫られます。
そんな中、UB(アッパーバイオニック:高度な生体機能を備えた者という意味)注入による超人化だけが最後の手段となるのですが、成功率は50%程度であり、失敗すると狂人となる運命。果たして直樹の決断は・・・?




まず、ヒトのDNA塩基配列イントロンに人類に対する強大な敵が隠されていたという発想に驚かされましたね。
さらに神の配慮(?)で、それに抵抗する手段まで用意されていたとは・・・。
実際に上巻終盤に登場するUBがなければ、地球上に人間の天敵が現れて、遠くない未来に絶滅の危機に陥ることは間違いなさそう。
主人公である深尾直樹は極めて有能ではあるものの、自分本位なところがあり、梶知美と交際するようになって、二人きりの時でも仕事優先。
しかし、彼女に別れを告げられてから、失ったものの大きさに気づいたのか、執着するようになる。冷静なようでいて、感情的な行動も取る。
主人公としては人間味あると言えばそうとも言えるけど、感情移入できる部分とそうでない部分がありました。
正直、文庫として手に取った時の分厚さに、読み終えるのにどれくらいかかるのだろうとは思いましたが、上巻だけでも主人公の立場が流離変転、謎に包まれた不気味な敵「C」の正体、命がいくつあっても足りなそうな熱いバトル展開など飽きさせません。
上巻が接触・単独での戦闘編だとすれば、下巻が集団戦闘編となるでしょうか。

*1:クトクルフ神話より取られている。後に「GOO」と改名