13期・2冊目 『下町ロケット』

下町ロケット (小学館文庫)

下町ロケット (小学館文庫)

内容紹介
「お前には夢があるのか? オレにはある」
研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。
そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。
圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。
創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、
佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。
特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。
男たちの矜恃が激突する感動のエンターテインメント長編!
第145回直木賞受賞作。

プロローグにて、種子島にて発射されたロケットの打ち上げシーンが描かれます。
主人公が開発主任として手塩にかけたロケットエンジン『セイレーン』。
それが打ち上げ中にトラブルに見舞われ、苦衷の末に廃棄処分となります。
かくして百億円相当の税金が無駄となり、全ての責任を取って主人公は職を辞し、大田区にある家業の町工場・佃製作所を継ぐことになりました。
新たに社長となった佃航平は町工場らしからぬ斬新な商品開発に力を入れて業績を伸ばしていましたが、ある日突然、大手取引先による一方的な受注打ち切りの通達。
追い打ちをかけるようにライバル社にして大手企業であるナカシマ工業による特許侵害で訴えられてしまいます。
ナカシマ工業は技術に強い弁護士事務所をバックに中小企業の弱点をついた法廷戦略で相手を追い詰めていく手段を得意としており、裁判が長引くほどに資金力の弱い佃製作所は苦境に立たされます。
心強い弁護士・神谷を味方につけるもこのままではじり貧になるのみ。
そんな時、大々的な宇宙ロケットプロジェクトを進めていた国内最大手の帝国重工は肝心のエンジンのバルブに関する特許を3か月差で佃製作所に申請されていたことに気づいて愕然とします(神谷による特許見直しが功を奏していた)。
帝国重工は佃製作所に特許買い取りもしくは使用許諾料を払っての独占的契約を申し出るのですが、航平が自身の夢と会社の将来を考慮して下したのは目先の利益を得るのではなく、自社開発による部品供給でした。


傲慢な大企業に対して、中小企業が泣き寝入りせずに手を尽くして意地を見せる。
ロケット開発を題材にした勧善懲悪の風味が強い企業小説と言えましょう。
宇宙ロケットという一般人には縁の薄い分野でありながら、技術説明は適度な範囲に留まっているので理解しやすく、ストーリーのテンポもいいので飽きさせることはありません。
ライバル企業との闘いや資金繰りの苦しさ、会社の方針の巡っての社内対立など、分野は違えどどこの会社でもありがちな障害を乗り越えていくさまも共感を呼びやすくなっていると思います。
下町の町工場を舞台として、家業相続に関する親子の相克や思春期の子を持つ難しさといった家庭面にも触れているのがいいです。
あえて難を言えば、1クールのテレビドラマのようなアップダウンの激しさと善人悪人がわかりやす過ぎる人物像、ややご都合主義な展開が見られるのが気になるところでしょうか。
もっともそれは万人受けしやすい点でもあるので、いいか悪いかは人によって感じ方は違うかもしれませんが。
最後に幅広い需要が見込めないロケット開発エンジンに注力するだけでなく、新たに医療分野の人工心臓へとチャレンジしていく姿勢を見せて幕を引いたのが良かったです。