11期・5冊目 『南海蒼空戦記6 帝都航空決戦』

南海蒼空戦記6 - 帝都航空決戦 (C・NOVELS)

南海蒼空戦記6 - 帝都航空決戦 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

威力偵察に飛来したB29が地方の工場や軍事施設に対し高高度爆撃を開始!日本軍は本格的なB29の本土襲来に対抗するため、ジェット戦闘機「椿花」の配備を進める。一方米軍は短期間で日本を屈服させるため、B29による東京総攻撃を決定。四段構えの防空網を敷くも、300機を集結させたB29との一進一退の攻防は遂に帝都上空になだれ込む。陸軍は「鍾馗」「飛燕」「疾風」、海軍は「極光」「月光」を動員し全戦力を結集。国家の存亡を懸けた戦いの結末は果たして―。シリーズ、堂々完結。

前巻にて航空決戦には勝利したものの、残存艦隊を集めた米軍の執念深い襲撃によって上陸輸送部隊が壊滅。戦略的目標であったマリアナ諸島の占領が成りませんでした。
勝者である日本の機動部隊も航空機の損害が思いのほか多いために戦力回復に時間がかかり、その間に基地機能を回復させた米軍はついに威力偵察を兼ねたB29による日本本土空襲を敢行。
最初の一撃に選ばれたのは名古屋に存在する軍事工場でした。
それ以来、百機以下の規模による本土各地(東京は除く)への空襲が断続的に続き、高度の低い夜間空襲ではレーダー配備の極光を始めとする双発夜間戦闘機の迎撃が効果をあげて撃墜数を増やしたものの、昼間高高度空襲では既存の戦闘機では性能を発揮できずに効果的な迎撃ができずにいました。
一方欧州ではA4ロケットによる英国への爆撃に業を煮やした連合軍がB29を初めて投入。ロケット基地爆撃を実施しますが、Me262による濃密な迎撃に阻まれて失敗。
アメリカでは大統領選挙に敗れたルーズヴェルトが残る任期中に日本屈服を達成させるためにB29の大量投入による東京大空襲を企図していました。
情勢判断により、アメリカ軍の意図を察知した日本軍は帝都防衛の準備を急ぐのですが、果たして切り札ジェット機の配備は間に合うのか?


さて、ついに最終巻ですな。
当時の日本軍の戦闘機では撃墜が困難だったアメリカの国力の象徴B29。
太平洋戦争にて日本降伏の立役者であり、さらに無差別空襲や原爆投下などで多大な被害を受けたことで日本人にとっては忌々しい存在です。
架空戦記での日本軍が対抗するには密かに開発していた秘密兵器*1を多少出したところでその量に押し潰されてしまうわけで。
そこで横山信義氏としては、ドイツの技術者を招き入れて技術力を押し上げて不遇に終わった航空機を登場させ、空・海ともに余力のある日本が万全の態勢で迎撃する。
ここまでくるのに大層時間がかかりましたが、著者らしいといえばらしいですね(笑)
そのせいか、気が付けば著者のシリーズにしては珍しく大規模海戦は発生しないまま、航空戦メインでした。


本作では史実の東京大空襲とほぼ同じ規模の500機のB29が出撃したとあり(エンジン不調などで約1割が戻った)、抵抗なく空襲を実施させたら確実に焼野原になり、数万人規模の民間被害者が出るるのは確実。
そこで海空挙げての総迎撃の戦いのさまはさすがに読み応えありました。
火力不足の鍾馗が墳進弾によって確実に撃墜したり、東京湾にて待ち構えていた戦艦部隊が密集体形の梯団に向かって三式弾を放って撃ち落としたりと主役を降りたかに思えた戦力が意外と活躍していたのがうれしい。
そして迎撃の主役であるジェット戦闘機「椿花」*2も一時はどうなることかと思いましたが、輸送中の空母からの出撃という非常手段によって大活躍したのはさすが。あれってたまたま大型かつ鉄鋼板を張った大鳳型だったのが幸いだったのでしょうか。
そういえば航空中研では航空機以外の周辺技術も底上げしていたということで、研究所に飛来したB29をレーダー制御の新型高角砲で次々と撃墜!と期待していたのですが、さすがにそれはなかったようです。


結果的にB29による帝都空襲は半数以上の撃墜によって失敗に終わり、新大統領の意向で戦略変換を図りたいアメリカと条件付き講和を受け入れた日本との間で停戦が合意して、ようやく太平洋に平和が訪れます。
そこには連合軍の主敵としていまだ欧州大陸に強大な力を持つドイツの存在と本国が攻撃を受けていて苦しい英国の仲介があった・・・といういつもの流れですな。
本作においてB29を相手に健闘した日本側の航空機も損害も多く、早期のマリアナ占領が難しい以上はあのまま戦争が続いていたらやがて防空網が破たんして史実と同じような流れになっていたことでしょう。
結局どうあってもアメリカと戦争してはいかんというところに落ち着くのですな。

*1:特攻機じゃない橘花とか秋水とか震電改とか色々あるよね

*2:「ちんか」という読みがネーミングセンス的にどうかと思うが