4期・69〜71冊目 『深海のYrr(上・中・下巻)』

深海のYrr 〈上〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

深海のYrr 〈上〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

深海のYrr 〈中〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-2)

深海のYrr 〈中〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-2)

深海のYrr 〈下〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-3)

深海のYrr 〈下〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-3)

内容紹介
ノルウェー海で発見された無数の異様な生物。海洋生物学者ヨハンソンの努力で、その生物が海底で新燃料メタンハイドレートの層を掘り続けていることが判明した。カナダ西岸ではタグボートやホエールウォッチングの船をクジラやオルカの群れが襲い、生物学者アナワクが調査を始める。さらに世界各地で猛毒のクラゲが出現、海難事故が続発し、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。母なる海に何が起きたのか?

地球規模で起った異変と人類の存亡を賭けた闘いが描かれる海洋巨編であり、著者が4年かけた取材調査の成果を盛り込んだだけあって、前評判に違わない実に読みがいのある作品でした。実際のところ、上中下巻読了にかかったのが2週間とちょっと。振り返ってみれば、長い長い映画を毎日見続けているようでしたね。*1
南米ペルー沖の漁場で、ノルウェー沖の海底油田で、ホエールウォッチングの名所であるカナダ西海岸で、あちこちの海で少しずつ現れた異変。そして本作で重要な役割を占めるヨハンソンやアナワクたちの私生活を通して内面までじっくり記述される上巻が静とすれば、考えられないほど性質が変貌した海の生物が人を襲い、世界中でパニックが広がり、人々の生活の多大な影響を及ぼす中巻が動といった感じでしょうか。それらの異変の原因について究明・対処すべく世界中の英知(それまでの主要人物たち)が最新鋭の米軍空母に集まった下巻はそれまでの伏線を生かした謎解き&サスペンスとアクションが満載です。


登場人物が多いながらも、それぞれのパーソナリティに特色あるのも特徴です。全体通して見れば、深い見識とダンディーさを備えたヨハンソンと悩めるアナワクの二人を主人公に添えて、好奇心溢れるジャーナリスト・カレンがヒロイン役か。
でも、悪役的である女性海軍司令官・リーとCIA副長官のヴァンダービルトがかなり強烈なキャラクターでしたね。性格は全く違うけど、アメリカの正義を信じて揺るがない権力者志向の二人。ハリウッド映画で誰がどんなふうに演じるのか気になるところ。*2


異変を起こしたモノの正体に触れるのはネタバレになってしまうのですが、一つ言えることは、重要人物の一人であるサマンサ・クロウ*3が述懐している通り、深海の底は宇宙に劣らず人類にとっての未知の領域であり、かつそこへ行くことは宇宙以上に困難な場所であること。にしても、映画で描かれるような地球外生命体とはまったく別物のYrrの生態は驚きではあります。
冒頭に登場した油田やメタンのように、海は人類に恩恵を与えるだけではなく、ちょっとしたバランスが崩れるだけで多大な被害をもたらすかもしれない。その背景には人間たちが何も考えずに好き勝手に危険物質を投棄したり垂れ流し続けた現状により引き起こされたと書かれているあたりがエコ・サスペンスと言われる所以ですね。

*1:事実、映画化が決定されているとのこと

*2:著作に協力した実在のドイツ人科学者も登場しているのだけど、映画に特別出演するのかな?

*3:SETI(地球外知的生命体探査)の研究員