9期・27,28冊目 『ファントム(上・下)』

ファントム〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

ファントム〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

ファントム〈下〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

ファントム〈下〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

内容(「BOOK」データベースより)
風光明媚な田舎町に異変が起こった。一夜にして全住民500人が死んだのだ!たまたま町を出ていて助かった二人の姉妹は、生者を捜してゴースト・タウンをさまよった。いったい何がこのような惨事を招来したのか?悪疫、放射能、有毒化学物質、それとも軍事用に開発された細菌兵器か?だが、見つかるのは胸のむかつく異様な死体ばかり。中には首や手を切断されオーブンに入れられた者や何かを恐れてバリケードを築き、拳銃を乱射している者まで発見された…。

スキーシーズンには大賑わいするが、シーズンオフの今は静かな山沿いの田舎町スノーフィールド。
そこに住む女医ジェニファーは離れて暮らしていた妹リサを迎えに出かけて町に戻ってきた途端に異変に気づきます。
つい先ほどまで生活していた様子を残したまま人々の気配がまったく消えてしまったのです。
そして自宅や近所にて原因不明のまま斃れている遺体を発見したことにより警察に通報するも、得体のしれない何者かが暗闇の中から姉妹を見つめている気配を感じ恐怖におののくのです。
保安官始め十数名の警察官が駆けつけるのですが、新たに数名の遺体を見つけるもその死の原因は掴めず。
むしろ一瞬の隙をついて警官が消えたり、見たことの無い巨大な蛾のような怪物に襲われたりして、説明のつかない「何か」のために町は壊滅し、そして彼らも窮地に陥ってしまったことを悟るのです。


専門家であるジェニファーが調べてみても、まったく傷跡や出血がなかったりとその死の原因はわからず、状況的にも手と首だけきれいに切り離されていたり、密室に閉じこもっていたりバリケードを築いたり、銃を撃って確実に当てている者など不審な点が増すばかり。
残された死者だけでも謎ですが、それに加えて500人に上る住民(ペットも含む)のほとんどはどこへ消えてしまったのか?
わかっているのは暗闇に潜む邪悪な存在。それは人間を脅しからかうほどの知性を持ち、電気や電話回線にまで干渉できるらしい。
まったく未知の存在に追いつめられてゆく彼らの恐怖が伝わってきますね。
”それ”は一体何者なのか?どうすれば対抗することができるのか?
否が応でも先が気になってしまいます。
やがて陸軍の研究者部隊と鍵を握るであろう考古学者が呼ばれて、”それ”の驚くべき正体が少しずつ判明するのですが、そのモンスターぶりにスノーフィールドに残された人間たちには如何ともしがたい絶望に襲われるのです。


歴史上、実際に起こった集団蒸発事件をベースにそれが遥か太古の時代から地底奥深くに住む未知の生物の仕業としたら?
もしもそのような「太古からの敵」に遭遇してしまったら?というSFとホラーを融合させた着眼点は秀逸ですし、終盤まで読者をぐいぐいと惹きこませる展開はさすがです。
脇役が一人ずつ犠牲になり、危機を潜り抜けた主役の男女が結びつくあたり、良くも悪くもハリウッド映画的ではありますが(笑)
その為というか、ヒロイン姉妹と保安官は魅力的に描かれていたけど、他のキャラクターが弱かったかなと思います。
満を持して登場した陸軍大将のチームと考古学者はたいした活躍なくやられてしまうし*1、サイドストーリー的な悪人たちに関しては人間の持つ悪の心を象徴させたかったのかと推測しますが、「太古からの敵」のモンスターぶりに比べたらあまり重要性を感じられず、最後のアクションは完全な蛇足であったように思えました。

*1:弱点を突き止めたのは科学者の一人ではあるが