12期・38,39冊目 『感染者(上・下)』

感染者〈上巻〉

感染者〈上巻〉

感染者〈下巻〉

感染者〈下巻〉

内容(「MARC」データベースより)

製薬会社、政府までも巻き込む巨大な陰謀の影。医師マーカスは、耐性菌に冒された娘サニーを救うことができるのか? 謎の特効薬「オメガ」の秘密とは? 医療の最先端の問題に挑んだ戦慄のメディカル・サスペンス。

2年前に読んだ『キャリアーズ』の著者パトリック・リンチの作品を見つけて読んでみました。
今回の舞台はアメリカ・L.A。
貧困者が多く済むダウンタウンにあるウィンスブロウ病院に担ぎ込まれたのが、いざこざ争いで喉に銃撃を受けたチンピラ。それに足を撃たれた警官。
どちらも緊急を要しましたが、弾丸は抜けていたためにそれほど治療は難しくなく、数日経てば回復するとみられていました。
しかし事態は急変。患部が腐敗して膿が止まらず、どんどん容体が悪化していきます。
抗生物質を投与しても効かず、あれよあれよという間に二人は死亡。その原因として耐性ブドウ球菌に感染していたのでした。
他にも感染して重体に陥る患者が続出。
彼の病院は「疫病船」とマスコミにたたかれた揚げ句、主人公である外科医マーカス・フォードは休職にまで追い込まれます。
その頃、マーカスの娘サニーは以前から喉の不調を感じていたのですが、マーカスが家を空けている間に食中毒に罹ってしまいます。*1
サルモネラ菌に感染していたことで、急ぎ父の病院で抗生物質の投与を受けるのですが…。


事前にマーカスがアメリカ健康学会主催の会議で、製薬会社の売上至上主義による抗生物質の乱用が細菌に対する耐性を生み出すようになており、将来的にどんな抗生物質も効かない耐性菌の感染を招くのではないかとスピーチしたばかり。
そんなスピーチで抱いた危惧が最悪の形で現実となったのでした。
実は学会の直後にマーカスに接触してきたのが生化学者ノヴァク。
彼は以前いた会社で画期的な抗生物質を開発していたのではないかと推測され、マーカスは彼と会う約束をしたのですが、彼は何者かに殺害されてしまうのでした。


行き過ぎた抗生物質の乱用が招いた耐性菌の感染という医療危機に面した現場、巨大製薬企業のビジネスや行政が絡んだ容赦ない駆け引き、実に読み応えある本格医療サスペンスでした。
今や重篤な症状でなくても、インフルエンザや何らかの炎症を抑えるため、医者に行けば簡単に抗生物質を処方されます。
歴史的に見てもペニシリンの発見によって、近世に至るまで人類を脅かしていた疾病の多くを完治することができたり、手術など医療技術の発達に寄与しました。
しかし、抗生物質によって退治されるはずの細菌はそれに対する耐性を得るようになり、かつて絶滅したかに見えた病気が再び現代でも流行の兆しを見せるとか。
そういう意味ではフィクションでありながら、非常に現実的な内容でしたね。
未来ある13歳の娘のために無茶してしまうマーカスの心情も理解できます。
それにしても、細菌はもともと人間の身体の中にもあるもの。
進化して人類の新たな脅威となりうるという点ではウィルスと同じですが、細菌は抑え込もうとすればするほど耐性をつけてしまう点で非常に対応が難しいものであると思わされましたね。

*1:マーカスは妻とは死別