11期・50冊目 『世界の涯ての夏』

世界の涯ての夏 (ハヤカワ文庫 JA ツ 4-1)

世界の涯ての夏 (ハヤカワ文庫 JA ツ 4-1)

内容紹介

地球を浸食しながら巨大化する異次元存在〈涯て〉が出現した近未来。
ある夏の日、疎開先の離島で暮らす少年は、転入生の少女ミウと出会う。
ゆるやかな絶望を前に、ふたりは様々な出来事を通して思い出を増やしていく。
一方、終末世界で自分に価値を見いだせない3Dデザイナーのノイは、
出自不明の3Dモデルを発見する。
その来歴は〈涯て〉と地球の「時間」に深く関係していた――

近未来、突如として出現したその存在は地球上において生物も無機物も関係なく、触れるもの全てを吸収し、奪ってゆく。
あまりに異質で異次元の存在−(涯て〉と名付けられた−によって人類はパニックに陥り、各国が(涯て〉に対して協力して取り組む体制が整うまで、戦争・災害・テロなどによって数多くの時間と血が費やされました。
構築された新たなネットワークによって、なんとか現状維持というか、終末への歩みを押しとどめています。
そんな中で、疎開先の島で転入生の少女に惹かれてゆく少年。被験者の老人。パワハラで精神を病んだことのある3Dデザイナー。それぞれの日常が描かれてゆくのですが、(涯て〉とミウという名の少女の存在によって三者は繋がってゆく、という流れになっています。


amazon小川一水の著作を検索していたら、関連書籍で目について、そのイラストとあらすじで衝動的買いしたものです。
世界の終末がはっきりと形を成している時代において、少年のパートはボーイ・ミーツ・ガールを描いたジュブナイルSF作品と言えましょう。
実は老人の過去を描いており、懐かしき思い出の少女を3Dグラフィックによる再現をデザイナーに依頼する。
曖昧な回想をもとに試しに作成してみたサンプル画像がぴったりと老人のイメージと合致してしまう。
そんな偶然があるのかと、少女を知るはずの老人の友人を訪ねてみるのですが・・・。


やはり少年のパートにおける、甘酸っぱくて郷愁を誘う少女との触れ合い、それに少女の行動の不思議さや記憶が断絶している謎なども相まって、惹かれるものがあります。
ありふれているけど、とても懐かしくて輝いて見える、田舎の情景が目に浮かんでくるようです。
現代のパートとのギャップが激しいのですが、デザイナーの心理的状況については現代サラリーマンに通じるものがあり、そこは著者の経験からきているのでしょうね。
SFとして、決して派手な冒険もあっと思わせるような怒涛な展開などはなくて、唐突に終わった感はありますが、未知との遭遇や世界の終焉、異質な侵略者の存在、非人類の時間の捉え方など、斬新な発想が盛り込まれているのが秀逸だと思いました。