7期・57冊目 『ザ・ロード』

ザ・ロード

ザ・ロード

内容(「BOOK」データベースより)
父と子は「世界の終り」を旅する。人類最後の火をかかげ、絶望の道をひたすら南へ―。アメリカの巨匠が世界の最期を幻視する。ピュリッツァー賞に輝く全米ベストセラーの衝撃作。

核戦争もしくはそれに近い大規模な戦争が起こって都市は壊滅、環境は破壊され、無政府状態に陥ったらしい近未来のアメリカを舞台に二人の父子が歩んでゆくさまを描いた作品です。
来る冬を越すために二人は荷物をショッピングカートに乗せて、ただひらすら歩いて南を目指します。
核の冬なのか、太陽は滅多に姿を現さず、曇りがちな天候の中で地は灰にまみれ、植物は枯れ果て、生きている人や動物の姿も滅多に見ることは無い。延々と続く廃墟。まさしく終末的な様相の中で、ごく普通っぽい父子の会話が綴られるのはほほえましいとも思えるし、逆に似つかわしくないとも言えそう。
無論、父は常に拳銃を持って他人を警戒しており、それは状況からして当然なのですが、異変後に生まれたらしき男の子*1は人の善意を信じて疑わない。老人になけなしの食べ物を分け与えようとしたり、同い年くらいの子供を見かけて声をかけようとしたり。
こんな世の中でも自分たちを善き者として行動しようとする心がけは立派ですが、父としては自分たちが生きていく上で無暗に人を信用することの危険や、悪き者に対する対処も教えたい。そのあたりの難しさはわかる気がします。


道中、手持ちの食品が無くなって何も食べられない日もあります。
店も家もすでに荒らされて久しく、森や川などの自然の恵みも得られない。
生き残った人々は奪い合い、殺しあう中でこのような父子が生きていることは奇跡に近いのかもしれません。それでも運よく見つけた食べ物を分け合い、ただひたすら南を目指して歩いていく。
どこかを拠点に暮らしていこうという気配は無く、南へ行くことだけが人生の目標となっているかのよう。
そしてついに海へと出るのですが、そこは期待していたような楽園などではなく、そして父の体は病魔が蝕む。


終末を描いた作品として特に優れているとは言えませんが、親の立場としてこの二人の行く末が気になってしまう。
極端な状況ではありますが、だからこそ父から子へ語り継ぐその言葉の一つ一つが心に染みいる作品でした。

*1:会話からして10歳前後だろうか?出産とほぼ同時か間もなく母は命を落としたらしい