9期・1冊目 『ぼくらは都市を愛していた』

ぼくらは都市を愛していた

ぼくらは都市を愛していた

内容(「BOOK」データベースより)
デジタルデータのみを破壊する「情報震」が地球上で頻発している。原因はおろか震源地すら特定できない。あらゆる情報が崩壊し、機能を失った大都市からは人の影が消えた。偵察のためトウキョウに進駐した日本情報軍機動観測隊は、想定外の「敵」と出会う…終末か創世か、3.11を経てはじめて書き得た、渾身の長編登場。

コンピュータ本体を始め、CD・DVDまでも含めたあらゆるデジタルデータを破壊するという謎の「情報震」が頻発するようになった近未来において、相互不信による大規模戦争が起こり、人類が大幅に減少。
「情報震」は今なお続き、原因も予測もつかず、通信途絶のまま人類は絶滅の危機に陥ります。
そんな中で首都移転後、無人のデジタルシェルターと化した東京を訪れたのは、機動観測隊を率いる日本情報軍中尉の綾田ミウ。生き別れの双子の弟に向けた彼女の手記から物語は始まります。
一方、警視庁公安課の綾田*1は知らぬ間に体に人工神経網を埋め込まれたために他人のケータイ情報を読み取れたるようになっただけでなく、同じ神経網を持つ同僚と思ったことがそのまま通じ合う疑似テレパスとなってしまいます。
ある日、若い女性が殺される事件が起きるのですが、事件現場に向かった際に綾田が犯人、同僚女性の柾谷が被害者の心理状況に陥ってしまいます。
それは人工神経網が受け取ってしまった幻なのか?
そしてその場から姿を消した謎の人物とは・・・?


同じ東京を舞台としながらも、別次元と言えるほどまったく環境が違う二つのストーリーが進んでいくのですが、読み進めていくほどに謎が謎を呼ぶ、なかなか手ごわい作品です。
かたや「情報震」のために無人でありながら都市機能としては生きている東京。
かたや(かつて生きていた?)人々の集合意識が作り上げたというごく普通の大都会。
二つの世界が交差した時に都市の真の姿を現す。
小説の中で描かれる東京という大都市の姿はいろいろ見てきましたが、この作品で描かれた(しかも両極端な)イメージがすごく新鮮でした。
ただ綾田(弟)の方には女性が重要な関わりを持ってくるのですが、結局謎めいたままあっさり退場してしまってちょっと残念でしたね。

*1:話の流れ的にミウの双子の弟カイムと想定される。年齢設定が不自然だが後々理由がわかる