7期・58冊目 『塩の街』

塩の街 (角川文庫)

塩の街 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた―。“自衛隊三部作”の『陸』にもあたる、有川浩の原点。デビュー作に、番外編短編四篇を加えた大ボリュームで登場。第10回電撃小説大賞“大賞”受賞作を大幅改稿。

突如巨大な塩の結晶が世界各地に飛来し、一瞬の間に塩の柱となった人々。
その後も原因不明のまま人間の体が生きながら塩と化してゆく”塩害”は後を絶たない。
世界が崩壊した中、両親と家を失って彷徨っていた女子高生の真奈は暴漢に襲われたところを元自衛官の秋庭に救われ、行くあてが無いためなし崩しに同居生活をしているという設定になります。
まず真奈と秋庭が出会った二人の青年の物語。
非常に重い荷物を背負って海を目指す遼一、銃を奪い刑務所から脱走したトモヤのエピソードがあり、その後秋庭の元同級生にしてエリートながら一癖も二癖もある入江*1によって強引に連れて来られた立川基地での暮らし。
クライマックスは秋庭自ら駆る爆装F4ファントムでの塩の結晶破壊作戦と進んでいきます。
そして作戦後のエピローグというには厚みのある「その後の世界」のエピソード。


自衛隊三部作”と銘打ってあり、確かに主人公が元空自のパイロットであり、山場で戦闘機をかって出撃してるのですが、以前読んだ『空の中』『海の底』と比べるとだいぶ恋愛小説の要素が濃いですね。というか『陸』にもあたるってのは無理やりっぽい。
世界がこんな風に滅茶苦茶にならなければ出会うこともなかった空自のエースパイロットと平凡な女子高生がいかに単なる同居人から恋人となるまで距離感が縮んでいく過程が中心になっており、無愛想だが根は優しい秋庭と一見ひ弱だけど芯は強い真奈の組み合わせが微笑ましくていいんじゃないでしょうか。中年の域にいる私には、女子高生視点の恋愛はちょっと馴染みにくかったですが(笑)
同じく特殊な状況になっているという点では『空の中』『海の底』に比べると、恋愛以外の描写が淡泊で物足りなさは残ります。
いわゆるパニック小説的なところは詰めが甘い*2のですが、あまりそこに突っ込んじゃいけないのでしょうなぁ。

*1:自衛官ではないのにどさくさに紛れて臨時基地司令の地位にある

*2:なんといっても塩の結晶の存在が謎過ぎる