10期・77冊目 『疾風ロンド』

内容(「BOOK」データベースより)

強力な生物兵器を雪山に埋めた。雪が解け、気温が上昇すれば散乱する仕組みだ。場所を知りたければ3億円を支払え―そう脅迫してきた犯人が事故死してしまった。上司から生物兵器の回収を命じられた研究員は、息子と共に、とあるスキー場に向かった。頼みの綱は目印のテディベア。だが予想外の出来事が、次々と彼等を襲う。ラスト1頁まで気が抜けない娯楽快作。

泰鵬大学医科学研究所にて既存のものを遥かに強力にした炭疽菌「K-55」が開発されてしまいます。
一つ間違えたら強力な生物兵器となるため、「K-55」は厳重に保管され、独断で開発した研究者は解雇されるのですが、彼は己の功績を認めさせるために密かにそれを持ち出しスキー場のブナ林に埋め(目印の木にテディベアのぬいぐるみ)、上司に三億円を要求するという脅迫事件に発展するのですが、帰りに高速道路にて事故に遭って死んでしまうというアクシデント。
ほっとしたのもつかの間、埋められた容器は10℃以下になると割れる仕組みとなっているという。さらに事が露見した場合、責任問題となって関係者の進退に関わるのは明らか。
というわけで関係者の一人である主任研究員の栗林和幸はスノーボードが趣味の息子・秀人に協力を依頼。残された写真を手掛かりにスキー場を突き止め、回収するために赴きます。
しかし約二十年ぶりのスキーということで素人同然の技術では広いスキー場のしかもコース外と思われるブナ林を周ることは難しく、雪に埋もれて身動きが取れなくなったり、足を痛めてしまったり。
そこでパトロール員の根津に問い詰められた際に人命に関わるワクチンと偽り、捜索を依頼するのでした。


『白銀ジャック』で活躍した根津と瀬利のスノボコンビが再登場。
再びスキー場を舞台とした軽快なスリルアクションであり、今じゃスキーと全く縁の無い私のような読者でも違和感なく入り込めます。
いきなり脅迫犯が死亡するというアクシデントに始まり、残されたわずかな所持品から炭疽菌「K-55」が埋められた場所を探す。
中身が炭疽菌という生物兵器であるため、警察は無論のこと、極力人に知られずに済ませたいのが難しいところ。
なかなか興味を引く出だしであったと思います。
手掛かりとなるテディベアのぬいぐるみに発信機が取り付けてあって(受信機は栗林が所持→根津に託す)、それを見つけるのが鍵となっているのですが、すんなりといかないわけで様々な思惑によって転々とします。
ストーリー展開自体はさすがに巧いというか、難しく考えずにすいすい読める娯楽作品なのは確か。
ある程度進むと先が読めてしまうので、「ラスト1頁まで気が抜けない」というのは大袈裟ですが。


それにしても気になったのが、炭疽菌というセーフティレベル最高の4で管理すべき重篤生物兵器を扱っている割には一貫して軽すぎるんですよね。
何万、何十万人の命が関わるであろうことがわかっているはずの栗林やその上司である東郷がコミカルなキャラと化していてシリアスな雰囲気など望むべくもありません。
悪役として登場する折口姉弟にしても、冴えているんだが抜けているんだか。*1
あらすじと冒頭からして同じ著者で言えば『天空の蜂』のような緊迫感溢れるストーリーを期待していたのですが、中途半端な内容で物足りなかったですね。

*1:オチには笑ってしまったが