8期・50冊目 『ベルリン1945―ラスト・ブリッツ』

ベルリン1945―ラスト・ブリッツ (歴史群像新書)

ベルリン1945―ラスト・ブリッツ (歴史群像新書)

内容(「BOOK」データベースより)
1945年、4月…。ナチス・ドイツ最後の牙城ベルリンは風前の灯であった。東からはソ連軍、西からは米英軍が押し寄せ、かつて世界を震撼させたドイツ機甲部隊の生き残り勇士達も、祖国を守るべく最後の死闘を決意した。一方、ドイツの開発したロケット兵器V2号の先進技術を奪うため、連合国軍の間にも暗闘が繰り広げられる。歴戦のドイツ戦車兵、戦乱に巻き込まれたベルリンの若者たち、V2号に婚約者を殺された復讐を誓う英軍大尉、そのV2号の奪取を狙うソ連将校…。人々の思いを飲み込んで、ヨーロッパ戦線最後の凄惨な戦いの幕が、今切って落とされた。

1945年4月、戦争末期のドイツ。
ベルリン在住の日本人少年・北村透はトラブルに巻き込まれた影響でドイツ人の学友らと共に国民突撃隊に組み入れられて、ベルリン防衛のために戦地に送られてしまいます。*1
ドイツ陸軍はもはや昔日の勢いを失って各地で敗走。逆に東からはソ連、西からは英米の大軍が侵攻し、更に度重なる空襲で荒廃するドイツ本土。
まさに末期的状況です。
それでも首都を守るために生き残りの兵士のみならず、少年や年配者まで国民は駆り出されて武器を手にする。
しかし物資が窮乏する中でろくな装備は与えられず、速成訓練も途中で切り上げられて、透らはただ時間稼ぎのためだけに強大なソ連軍に立ち向かうのです。
結果、未熟で装備も劣悪な国民突撃隊は敵戦車部隊にいいように蹂躙されて、なんとかパンツァーシュレック*2で一矢報いるもあっさり壊滅。
透はわずかに生き残った級友二人とともに救援に来た味方戦車隊に拾われて、今度は首都ベルリンで即席の戦車兵として戦っていくことになっていくのです。


以前読んだハッピータイガー・シリーズでは元々日本軍の陸軍少尉だったバートル(川島)が奇妙な成り行きでタイガー戦車の砲手になって、戦争終盤にドイツから日本に向かった途上で末期的な日本軍の状況が見られました。
少なくとも国外の戦地が舞台だったハッピータイガー・シリーズに対し、本作では首都を蹂躙されるドイツ第三帝国の落日のさまを日本人少年の目線で描かれるわけで、その悲惨さという点では目を見張るものがあります。
無論、日本でも大空襲や沖縄戦などで民間人に多大な被害を出したことは知られていますが、ドイツ国内の終戦間際の様子というのはあまり知らなかっただけに惹きこまれるものがありました。


まったくの素人がいざ戦車に乗り込むとどうなるか?
急場凌ぎの要員として、歴戦の戦車長と組んで最低限の知識を叩きこまれただけで砲手として戦場に出てしまった透。
見た目の印象と違って、実際乗ってみる戦車は狭くて乗り心地が悪く、息苦しさを感じさせるもの。そして意外と壊れやすくてデリケート。
でも完全に撃破されたのではない限り、修理して使いまわして運用していくのが前提となっているようです。
それにしても、のっけから搭乗したのが4号戦車の車体に5号パンターの砲塔を乗せた通称”家鴨(あひる)”*3だというのがぶっとんでますな。
その後、透は戦車を地面に埋めただけの固定トーチカという決死の任務を切り抜け、ちゃんとしたパンター戦車の砲手としての技量も上がってゆくのですが、よくぞ生き残ったというくらい過酷な戦場を渡っていきます。
淡々と描かれていますが、美しかったベルリンの町並みは破壊し尽くされ、市民は逃げまどい、死者・重傷者は放置されて、まさに地獄と言っていいほどです。


一方、戦後を見越してドイツの開発したロケット兵器V2号の先進技術を巡る駆け引きがあり、透らの最期の戦いに絡んで絶妙なクライマックスを迎えます。
ドイツが国家として無条件降伏を受け入れた後も、横暴甚だしいソ連軍から逃げる難民の脱出を助けるために戦地に向かうドイツ軍部隊のくだりは泣けますね。
主題が「ドイツ第3帝国の滅亡」だけに決して華々しさはなく地味でマニアックで読む人を選ぶ架空戦記でしょう。
でも兵器のイラストや地図がたくさん記載されていたのは親切でわかりやすかったです。


そんで巻末に、『妄想戦車概論「戦争という”お化け”の正体に迫るということ」』という題名で、あの宮崎駿が書いています。
これがわかる人にはわかるというか、かなり面白い内容です。
戦争を知れば知るほどわかる泥仕合っぽさとか諦観とかニヒリズムとかそんなこと書いてて、まぁその一般的に知られるジブリの監督とは違う軍事マニアの顔が窺い知れます。
先日引退を表明されたばかりですが、『風立ちぬ』に続いて本作も映像化してくれないかなぁ・・・やっぱり無理か。

*1:本来は家族と共に疎開するはずだった

*2:一般的にはパンツァーファストと呼ばれる

*3:バランスが悪いためにまっすぐ走れない