10期・26冊目 『ラー』

ラー (SFシリーズ)

ラー (SFシリーズ)

内容(「BOOK」データベースより)
ピラミッドの謎に魅せられ、その生涯を“タイムマシン”の開発に費やした現代人ジェディは、紀元前2624年への時間跳躍に成功する。だが、クフ王の治世下にあるエジプトで彼が目にしたのは、建造途上にあるはずのピラミッドが発掘されている現場だった。なぜかジェディを崇拝する監督官のメトフェルもまた、その秘密については固く口を閉ざす。ピラミッドとは何か?その目的とは?―帰還期限が迫るなか煩悶するジェディは、ついにクフ王その人への謁見の機会を得るが…古代エジプト哲学とSF的奇想を融合させた、『アイオーン』の著者による新境地。

数あるピラミッドの中でも巨大なギザの三大ピラミッド、特に最大であるクフ王のピラミッドはそのあまりに高度な技術のために謎が多いと言われます。
そんなピラミッドの謎に魅せられた男がその生涯と莫大な資産をかけ、ピラミッドが造られたであろう時期に立ち会うためだけの目的で開発したタイムマシン。
そして見事に紀元前2624年のエジプトへのタイムトラベルを成功させます。
しかし不思議なことにこれから建造されると思われていたギザのピラミッドがすでに存在し、しかも砂に埋もれた中から発掘されている様子。もしかしてタイムトラベルする年代を間違えたのか?
幸運なことにピラミッド建設管理者であるメトフェルに出会い、便宜的にジェディと名乗った主人公は彼の崇拝と歓迎を受けることができたので、ピラミッドについての疑問を直接ぶつけてみるのですが、核心に触れようとするとなぜか固く口を閉ざしてしまうのです。


ピラミッドについては概要程度しか知りませんが、その巨大な雄姿と精密な構造にはさまざまな謎と多くの異説(宇宙人の手によるものなど)を呼ぶ、ロマン溢れる古代史の中では最たるものなのは確かですね。
タイムマシンが開発されたらピラミッドの建設現場を見てみたいという気持ちもわからなくもありません。
ピラミッドへの熱意に人生を賭けてきた主人公は時間旅行者として当時のエジプトを堪能します。
タイムマシンを目撃されたせいか、特別な存在と勘違いされるおまけまでついて。
さらに行きがかり上、瀕死の神官を薬で救ったためにクフ王に魔術師と思われて宮廷まで呼び出されてしまう。
自動操縦によるタイムマシンの迎えのリミットを考慮しつつも、王の宮廷や祭礼の様子などを見ることの誘惑に抗えない主人公なのです。
そんな様子がまさに見てきたような抒情感たっぷりに描かれており、読む方も紀元前のエジプトにいるかのような錯覚に陥ります。
いささか主人公の行動は行き当たりばったりのような気はしなくもないですが、こうやってタイムトラベラーが伝説として残った例があっても不思議じゃない気がしますね。