- 作者: 蘇部健一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/02/15
- メディア: 文庫
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内容（「BOOK」データベースより）
小説家を夢見ている小早川嗣利は、美しい妻と可愛い娘に囲まれて幸せに暮らしていた。だが、ある日娘が誘拐され行方不明となる。やがて、生まれた二人目の娘も不治の病に…。重なる悲劇に意気消沈する嗣利は、幸せな家庭を取り戻せる方法があると知る。愛する娘のため、それを試すが思いもよらない結末が!?時を超えられるなら、愛する人を助けますか?たとえ何が起ころうとも…男は娘のため、時を超え遠い世界へと旅立つ。
美しい妻と可愛い娘に囲まれて幸せに暮らしている出だしですが、やがて不幸の影が忍び寄ります。
突然愛娘が誘拐され、警察による必死の捜査の甲斐無く死亡したことが知らされ、自身を責める妻は自殺してしまう。
その後、主人公の職場に美しい女性が入ってきて、過去の不幸を引きずる主人公は最初こそ拒むものの、やがて二人は恋に落ち結婚。しかし生まれてきた娘には現代の技術では治せない難病を患っていた・・・。
最初こそほんわかしていますが、次々と主人公・小早川嗣利に襲いかかる不幸の数々。娘を救うためにタイムスリップという手段に頼るのもわからないでもないです。
ここでのタイムマシンは未来に行くことのみ可能*1とはいえ、タイムスリップものにはお馴染みのタイムパラドックスや、未来を知ることによって歴史を変えてしまうことの危険を説き、くれぐれも別の時代に関わらないようにと気をつけて旅立つのですが、実際そうはいかないわけで。
実は誘拐事件あたりから違和感を感じ始め、タイムマシンが登場するあたりで時間によるトリックが仕込まれているであろうことは予想できてしまうのです。
ヒントとしてはファザコンとしてはちょっと怖い娘の台詞ですね。
それにしても主人公のモテモテぶりには同じ男性・父親としてはうらやましい限りですが、実情を知ると複雑だったりします。
時を超えた恋愛ものとしてサクっと読めますが、結末としてはやや読後感は悪いですね。感動を期待していると裏切られます。
【以下、ネタばれ】
最後の百合子（美香）の独白で明かされた事実は以下の通り。
1993年、タイムマシンを開発した博士のところへ出かけた主人公の9歳の娘・美香はそのタイムマシンの操作を教わり、そのまま過去へ行ってしまう。そして養護施設に入り、百合子と名乗ってそのまま過去の時代に残る。
1982年、独身時代の父を一目見るために出かけるが、痴漢に襲われたところを偶然嗣利に助けられる。
1993年、自身の狂言誘拐を演出しただけでなく、母・広子を自殺に見せかけて殺害。
1994年、苦学の末に国立大を卒業して嗣利と同じ会社に入り、先輩を通じて出会い、想いを遂げる。
1997年、百合子と嗣利との間に生まれた娘・利恵には難病を患っていた。百合子は近親相姦が原因と自覚しているが、なぜか宗教にはまる。未来の医療技術ならば治せるかもしれないということで、百合子は嗣利に博士を紹介（実際は百合子が博士に強要）。
2027年、30年後の未来に跳んだ嗣利はそこで足の不自由な女性・美里を助け、関係を持つ。
1997年、彼女の写真だけもらい、再会を約束して未来から帰ったが、再び未来に行くことも叶わず（実際は百合子がタイムマシンを破壊し博士を殺害）、そのまま妻子と幸せな暮らしを過ごしていくかに見えた。しかし写真を見つけて考え込む百合子。
2009年、家族でピクニックに出かけた先で、睡眠薬で眠らされた夫と娘を道連れに心中を図る百合子。しかし案に相違して死んだのは嗣利のみで、利恵は足に怪我を負っただけだった。そして精神的ショックを受けた百合子は医療施設へ。
2028年、その後、赤ん坊を抱いた美里利恵が来訪し、百合子に紹介する（利恵自身は父親との子と半ば自覚している）。
見た目精神を患っているように見えた彼女だがわかっていた。その赤ん坊は同じ父親の娘である美香・利恵の妹だということに。そしてその赤ん坊には難病の気が見えていた。
ファザコン娘の暴走と壊れっぷりがすさまじいですが、因果応報でその娘も同じ過ちを犯してしまうというオチ。あえてハッピーエンドにさせないという著者の意図なんでしょうか。一般的には受け入れられにくいでしょうね。
タイムスリップ恋愛ものとして、知らずして近親者に想いを抱いて（抱かれて）しまうというのはありがちですが、もしそれが実現してしまったら？
家族の関係を超えた恋愛はタイトル通り「届かぬ想い」でいるうちが美しいのだろうなぁと思わせるものでした。
それから解説の大森望も指摘していたように、近親相姦によってできた子どもが必ず重い疾患を患ってしまう展開はどうかと。*2
ちょっと百合子（美香）の行動が飛躍し過ぎで、最後のまとめは無理やり感が出てしまったなぁと感じてしまいました。
