11期・17冊目 『火星ノンストップ (ヴィンテージSFセレクション―胸躍る冒険篇)』

水星は常に同じ面を太陽に向け、火星には火星人が住み、木星にはまだ大地があった時代――
最新のマシンが真空管で動いていた時代――

1930〜60年代の古き良き海外SF短篇の中から、胸躍る冒険の物語を集めたアンソロジー
あなたもクラシックSFの魅力を再発見してください。


【収録作品】
ジャック・ウィリアムスン「火星ノンストップ」(1939年)
 大陸間をロケットが飛び回っている時代、火星に着陸した異星人が地球の大気を強奪しはじめた! 地球壊滅の危機を前に、時代遅れのプロペラ機パイロット、カーター・リーはある決断を下す。


マレイ・ラインスター「時の脇道」(1934年)
 時空に異変が生じ、地球はパラレルワールドの入り乱れるパッチワークのような世界と化してしまった! パラレルワールドの概念を世界で最初に提示したと言われる記念的作品。


C・L・ムーア「シャンブロウ」(1933年)
 宇宙の無法者ノースウェスト・スミスが、火星の路地裏で助けた異星人の娘シャンブロウ。だが彼女には恐ろしい秘密が……ラヴクラフトも絶賛した永遠の名作が、野田昌宏訳で復活!


ポール・アンダースン「わが名はジョー」(1957年)
 凍った大地にアンモニアの嵐が吹き荒れる木星。人工的に創造された擬似木星人ジョーと、衛星からそれを精神感応で操るアングルシー。コーネリアス博士は両者の関係に疑惑を抱く。

A・E・ヴァン・ヴォクト「野獣の地下牢」(1940年)
 何にでも変身できる不定形のアンドロイドが地球に侵入! その目的は火星の巨大な牢に捕らわれた異次元の邪悪な知性体を解放することだった。これが『ターミネーター2』の元ネタ?


アラン・E・ナース「焦熱面横断」(1956年)
 永遠に太陽の沈まない水星の焦熱面。鉛さえ溶ける温度の灼熱地獄を、車両で横断しようと計画する大胆不敵な冒険家たち。だが、彼らの前途には悲劇が待ちうけていた。


コリン・キャップ「ラムダ・1」(1962年)
 通常空間とわずかにずれた超空間に移行することにより、地球内部を貫通するタウ空間船。だが、1隻のタウ空間船が実体化できなくなってしまった。頼みの綱は旧式の実験艇〈ラムダ・1〉のみ!

出典:http://homepage3.nifty.com/hirorin/vintagesf01.htm


1930年代から1960年代にかけてのSF古典の名作アドベンチャーを集めた短編集です。
個人的にはポール・アンダースンを除いて知らない作家ばかり。
前半は特に戦前発表された作品であり、その前提となる天文学やコンピューターを始めとする科学知識は古めかしいものばかり。
それでも、極限の中で限界まで挑む男たち破天荒な冒険は今読んでも色あせたりしません。
普通に登場する火星人や金星人とか、それぞれの星の状況とか、天文知識に乏しかった分を補うだけの人間の想像力の豊かさを感じさせますね。


やはりタイトル作品である「火星ノンストップ」はその破天荒ぶりが随一。
そんなわけあるか!と切り捨てるのは簡単ですが、地球から盗ん空気が満ちる火星の空を飛ぶレシプロ飛行機なんて、ぶっとびすぎです。
コンピューターに制御されている現代の飛行機と違って、人間が直接手で機械を操作する感のあるレシプロ機はやっぱりアドベンチャーとしてふさわしいですねぇ。
「時の脇道」はパラレルワールドを世界で最初に提示したと言われる記念すべき作品ということで、そういった内容に興味あるので結構興味深く読みました。
かなり元の世界に比べて登場する異次元世界がかなり乱暴というか無茶苦茶な内容ですけどね(笑)
シャンブロウ」はなんといっても人外ヒロインであるシャンブロウが強烈な印象を残します。
見た目の可憐さとその本性の怖さを同時に感じるところが、やはり魅力なんでしょうな。
どことなく主人公のイメージとして、漫画『コブラ』(アニメでは『スペースコブラ』)*1を思い浮かべました。
「わが名はジョー」は精神感応がテーマとなっていて、ところどころわかりづらい点はありましたが、当時信じられていた木星の過酷な環境における独特な生物や暮らしざま、そしてラストはとても良かったです。
「野獣の地下牢」に登場するのは何にでも変身可能な不定形のモンスター。
人間の心まで読み取って完全に成りきれるあたりが万能に思えますが、かといって無敵というわけではないのです。
最後の台詞「それにわたしは……人間が好きだった。わたしは……人間だった!」は人間に成りすますことが多かったゆえにその感情に影響を受けたのかなぁと思わせる、ちょっと切ないラストでした。
当時は常に太陽に同じ面を見せていると信じられていた水星の焦熱面の冒険を描いた「焦熱面横断」。気温は数百度は及び、地面は脆く、そこかしこで高熱ガスが噴き出ているという、想像を絶する環境描写がすさまじい。
かつて横断を試みたパーティの中で唯一生き残った人物の告白なのですが、再びそこへ向かうあたりが冒険者の心情を表していますね。
「ラムダ・1」は超空間を利用することで地球内部を貫通し、大陸間を低コストで移動できるという画期的な移動手段としてのタウ空間船の遭難事件。旧式の実験艇〈ラムダ・1〉に乗り込んで救出に向かう男たちの物語。
聞きなれない用語やら、不可思議な空間が断続的に続く描写に戸惑うこともありました。
まぁ一面ピンク色の空間など、思い浮かべてもコミカルな様子しか想像できないですが。
どうなることかと思いましたが、きちんと登場人物に絡んだ結末になって良かったです。

*1:あれも古いアメリカの西部劇やSFの影響を受けているらしい