8期・51冊目 『コロロギ岳から木星トロヤへ』

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
西暦2231年、木星前方トロヤ群の小惑星アキレス。戦争に敗れたトロヤ人たちは、ヴェスタ人の支配下で屈辱的な生活を送っていた。そんなある日、終戦広場に放算された宇宙戦艦に忍び込んだ少年リュセージとワランキは信じられないものを目にする。いっぽう2014年、北アルプス・コロロギ岳の山頂観測所。太陽観測に従事する天文学者、岳樺百葉のもとを訪れたのは…。21世紀と23世紀を“つないで”描く異色の時間SF長篇。

時間SFの中でもよくある時間跳躍ではなく、異なる時代・場所が繋がってしまったのが本作。
しかもそのきっかけは人類とは文字通り住む世界が異なるカイアクが繁殖のために時の泉を中心へ遡る途中で楔(人類の属する時系列においては何らかの特異点らしい)に頭と尻尾が捕まってしまって動けなくなった結果、21世紀の日本(頭)と23世紀の木星前方トロヤ群の小惑星アキレス(尻尾)が物理的に繋がってしまったというのです。
北アルプス・コロロギ岳の山頂観測所にて太陽観測に従事する天文学者・岳樺百葉(たけかんば・ももは)は観測ドームに何か巨大なものが突っ込んでいるのを目撃する。
巨大大根としか形容しがたいカイアクと称するその物体とコンタクトを取れた結果、信じがたい事態が判明。
このまま時が進めばカイアクの巨体は観測ドームどころか地球内部に突き進んで惑星自体の破壊の可能性があるということ。
そのためには23世紀の小惑星アキレスにて囚われている尻尾を解放してもらうためにメッセージを送ってほしいと依頼されるのです。*1
一方、エネルギー資源を巡る戦争でヴェスタ人に敗れて惑星を占領され、屈辱的な生活を送っているトロヤ人たち。
そんな中で少年リュセージとワランキは廃艦の中に閉じこまれてしまい、脱出の術は無いまま食料はわずかばかり、その上残留放射能の危険に晒される。
そんな中でカイアクの尻尾が200年前に繋がっていると知り、モールス信号によるSOSを送ることにしたのですが…。


別々の次元を生きているカイアクと人間が偶然のアクシデントで出会い心を通わす。
そもそも両者の時と距離の概念が違うというか、まるきり逆なのでややこしくもありますが、なんだかんだで利害が一致して協力してゆくさまが面白い。全世界へ発信したメッセージが名画の落書きとなって未来のリュセージとワランキが目にしたり、発信者不明の物体が拾われて二人の手元に届くことになったり。
百葉ら21世紀の人間が未来の、しかも別の惑星にて窮地に陥った少年を救えるのかという点が非常に気になってしまう。
未来からでなく、過去から働きかけるというのが珍しい点ではないでしょうか。
それでいて緊迫感よりもユーモアと温かさにも溢れるのは著者の作風でしょう。
大作『天冥の標』がちょうどPart6の3まで出ていますが、人間と異次元の存在が接触するところが似通っているものの、息抜きのようなあっさりした内容ではありましたね。

*1:尻尾側では直接人間とのコンタクト不能