8期・52冊目 『スラッグス』

スラッグス (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

スラッグス (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

顎に冷たい物を感じて目がさめた。ぬるついた物体が唇に這い上がり、口の中に滑り込んでくる。頭の傷に手をやると、何かが傷口にしがみついていた。粘液にくるまれた生物が温かい肉をむさぼっているのだ―悲鳴をあげて飛び起きたときは手遅れだった。部屋は、うごめき這い回る食肉虫の群れに覆われていた。彼の肉体を喰い尽くそうとする大群に…異常発生したナメクジの群れが、食糧を求めて人間に襲いかかる!気鋭の若手がおぞましき恐怖を描く傑作スプラッター

生物が大量発生とか突然変異して人間を襲い始める。
そんなパニック・ホラーは昔からB級ホラー映画を中心にいろいろあったと思うのですけど、ここで出てくるのはナメクジ。
見た目よろしくなく苦手な人が多かろう生き物ですが、体も小さく特別人に害をなすわけではないです。
それが本作では、とある地下室で腐肉を喰らって通常の十倍以上のサイズの肉食ナメクジが大量発生。
しかも日本でよく見かけるような茶色ではなく黒々としていて、むしろヒルが巨大化したさまを想像した方がイメージ近いかもしれません。
地上に出た際に運悪く怪我した泥酔男に襲いかかり瞬く間に貪り尽くしたのを皮切りに次なる獲物を求めて街への侵入を開始するという展開。
もう初っ端から男が生きながらナメクジに喰われるシーンはえげつなさ満点。


役所の衛生管理官・マイクはゴミ屋敷と化していた家を訪問した際に何かに食い散らかされた家主の遺体を発見。その周囲にぬらぬらして光沢を帯びた筋がいくつも残っているのを見て不審に思います。
他にも仕事で行った先の住宅地や下水管でも同じような筋(ナメクジの這った跡)をいくつも見つけ、嫌な予感に囚われる。
そしてついに自宅の庭を掘り返していた時に黒くて大きいナメクジが何体も出てきてばかりか、マイクの手に襲いかかろうとして手袋を食い破ったのです。
事態を重く見たマイクは数匹をサンプルとして瓶詰に入れて博物館を訪れ専門家に託します。
一方、下水管を伝わってナメクジたちは住宅地に侵入。ついに人々を襲い始めます。
ちょうど時期は夏で繁殖にも適した季節。何千何万の数に増殖したナメクジの群に街は飲み込まれてしまうのか?


ナメクジって本来は畑や菜園の害虫として知られるように草食らしいのですが、この中では冒頭から巨大化して肉食、かつ群れとして社会性を備えた行動を取り、人間にとって大いなる脅威と化すのです。
しまいには水道管を通して家屋に入りこむようになって、人々のライフラインが脅かされることに。
これは大変なことになるぞ・・・と期待させておいて最後は意外とあっさり解決してしまいました。
どうしてこうなった?という説明部分は一切なく、また信憑性の問題から(?)対応するのはマイク含めて行きがかり上協力することになった三人だけなので、話のスケールとしては小さいです。


それでもホラーとしては緊迫感とスリルある描写に楽しませてもらいましたね。
登場人物たちはいつどこで襲われるのかドキドキハラハラ。*1
床一面をナメクジの群れが覆うさまを想像して気持ち悪さMAX。
次々とナメクジに食いつかれ、逃げようと足掻くも、やがて体内にまで入り込まれて絶命する犠牲者の描写は非常に痛々しい。
しかもなぜか動きまでも敏捷になってて、素早く人間の足を駆け上る(飛びつく?)なんて反則ですわ。
そしてラストはホラー映画のお約束通りに実は絶滅せずに次なる惨劇を予想させるところにニヤリとしてしまいました。

*1:カップルがエッチなシーンで襲われるのは定番だよなぁ