6期・48冊目 『WORLD WAR Z』

WORLD WAR Z

WORLD WAR Z

内容(「BOOK」データベースより)
中国奥地で発生した謎の疫病。それがすべてのはじまりだった。高熱を発し、死亡したのちに甦る死者たち。中央アジア、ブラジル、南アフリカ…疫病は拡散し、やがてアウトブレイクする。アメリカ、ロシア、ドイツ、日本…死者の群れに世界は覆われてゆく。パニックが陸を覆い、海にあふれる。兵士、政治家、実業家、主婦、オタク、スパイ。文明が崩壊し、街が炎に包まれるなか、彼らはこの未曾有の危機をいかに戦ったのか?辛口で鳴るアメリカの出版業界紙「カーカス・レヴューズ」が星つきで絶賛、ニューヨークタイムズ・ベストセラー・リストにランクインしたフルスケールのパニック・スペクタクル。

今までゾンビもの小説・漫画をいくつか読んできましたが、それらは規模や視点が限られていました。
もともと不死であるゾンビがなんらかの条件が重なって爆発的流行(アウトブレイク)して一斉に人々を襲いだしたら人類は窮地に立たされるのではないかと想像してしまうわけですが、それを全世界レベルの視点からデテールまでこだわって書かれています。


勃発から大パニック、そして全面戦争を経て人類が勝利を収めておよそ10年後、未だその爪跡の生々しい中で世界各地を周って様々な人物の証言を集めて物語が綴られていくオーラル・ヒストリーという形式を取っています。
登場する人物は場所も民族も職業もバラバラですが、話題が前後して関連付けられているあたりに工夫が施されていますね。
またそうやって語られる内容が程よいところで変わるので、全体的には非常に長いのですがあまり飽きることがなく、続きが気になって読んでしまいますね。*1


中国奥地で始まったと思われる人を咬む謎の疾病とゾンビ化。それに立ち会った老医師へのインタビューから始まり、様々なルートで世界中に広まっていく様子が様々な場面から詳細に記されています。咬まれてもすぐに発症しないため、キャリアのまま移動して新たな地でゾンビと化す。難民や亡命だけでなく、臓器売買といった闇ルートまで拡大に手を貸していたというのが恐ろしい。
そういった中で当然のことながらデマが広まるわ、生きている人間同士の争いは激化するわ、怪しげな薬・対処法が出回ってそれにすがる人々など、ありとあらゆる反応が描かれるのがこの作品の特徴。
ゾンビによる大いなるパニックと並行して、人種や宗教といった世界で抱える問題まで描かれるあたりがスケールの大きさと言えるでしょう。


当然ゾンビとの戦いも色々と描かれますが、何らかの手段で脳を破壊しない限り動きを止めないため、現代戦の常識、いわゆるハイテク兵器は用を成さず(核はデメリットの方が大きいとみなされ使用されなかったと思われる)、中国やアメリカは強大な軍事力をもって対処するも失敗に終わります。
実際の軍指揮官に語らせているように、味方の損失がそのまま敵の戦力となるわけですし、ゾンビには組織や兵站や降伏という概念がありません。それに対して人間の軍隊にはゾンビとの戦闘以外で足を引っ張られることが多し(兵士のストレスや物資不足や人間の敵対など)。いかにゾンビとの戦いが厳しいものかよくわかります。わかりたくもないけど。
一方イスラエル鎖国政策を取り、日本のように北方への移民政策を取る国もあります。
それにしても過酷な経験を経て生き延びた人ばかりゆえ、それぞれ変わったエピソードが多くなるのはわかりますが、登場した日本人が一人はオタクでひきこもり。一人は座頭市ばりの盲目戦士だったりするのがなんとも言えませんなぁ。*2


雪崩式にゾンビの占領区域が広まっていく中、なんとか人類は踏みとどまり、遂に組織的に立ち向かおうとします。孤立しているコミュニティへの輸送作戦を行ったり、軍を対ゾンビ戦に特化し再編して掃討作戦に出ます。このあたりの描写はアメリカ大陸が中心になっているのですが、主要各国でも同様に踏み切ったらしいです。そうでなければWORLD WARと呼べないしね。
でもって戦いに勝利してめでたしめでたしとならないあたりが非常に現実的ですね。気の遠くなるほどの残敵掃討戦。凍結はするものの春にはれば復活するし、なぜか水中においても腐敗せず獲物を求めて活動し続ける(船や潜水艦に群がったり島や海岸に上陸したり)。世界中にどれだけのゾンビが残っているのかは誰にもわかりません。さらに崩壊した人類社会の再建など。かろうじて未来が見えてきた中、課題が山積りな様子が描かれつつ終わりを迎えました。
まさにゾンビ戦争の集大成とも言える読み応え充分の大作でしたね。

*1:それでもこのヴォリュームだけに読むのに一週間以上かかった

*2:ゾンビにオタクに日本刀という組み合わせが佐藤大輔を思い起こす