6期・46冊目 『憎鬼』

憎鬼 (RHブックス・プラス)

憎鬼 (RHブックス・プラス)

内容(「BOOK」データベースより)
しがない公務員のダニーは通勤途上、ビジネスマン風の男が老女に襲いかかり容赦なく殴打する場面に遭遇した。その後街では平凡な市民が突然凶暴化し、見ず知らずの他人を、友人を、家族を襲う事件が頻発する。メディアは彼らを“憎鬼”と名付けた。死者は増え続け、ダニーは家族と自宅に閉じ籠るしかなかった。やがて軍隊による“憎鬼”狩りが始まり、ゴーストタウン化した街にも希望が見えたかに思えたが、ある朝ダニーの身近に予想しなかった事態が!―。

いわゆるゾンビものホラー・パニックに含まれるのでしょうが、この中で出てくるのはごく普通の人間なのです。
原因がなんにせよ死人ならば見た目である意味区別しようがありますが、内面はともかく外見は人間そのものなんですから見た目にはまったくわからないのが怖いです。*1
すれ違っただけの他人同士だったり、さっきまで親しく話をしていた友人・家族が突如殺意を抱いて襲い来る。普段の人間関係はまったく関与しないので、まったく察知しようがありません。


主人公のダニーは若くして3人の子を持ち日々の暮らしに汲々として過ごすサラリーマン。仕事上のストレスや義父との関係に悩まされながらも家庭を守ろうとする姿になんだか自分も他人事とは言えません。
当初は一部の暴力事件をメディアが取り上げて煽ることで大きく見せようとしている、と自分には関係ない外側の事象と捉え、やり過ごそうとする姿勢はわからなくはないです。
しかし仕事先や家の近所でも憎鬼による殺人を目撃することで、この異様な事態はぐっと身近に迫ってきます。
食料を店舗から強奪する人々。そこでは少女が憎鬼と化して母親に襲い掛かっていても周りは見て見ぬふりして走り去る。テレビは情報を流さず、街は荒れ、人々は外出しなくなる。社会が急激に崩壊していく様がリアルに描かれます。
もしも愛する家族が憎鬼になってしまったら・・・と不安に駆られながら自宅に篭るダニーの家族。やがて転機が訪れます。


ネタバレすれば、ダニー自身が憎鬼と化して目が合った義父を即座に殺してしまったこと。
憎鬼となると、家族も友人も関係なく、他人は全て憎悪を感じるかどうかだけになります。唯一娘が同類だとわかるも、妻が連れて逃げてしまう。そこからダニーの孤独な追跡と逃避行が始まるわけです。
どうしても主人公視点がほとんどなので感情移入がしやすい分、状況としてはわかりにくいですね。主観的に憎鬼になったらどうなるかという点だけはわかるのですが、唐突にダニーらは当局によって狩られて連行されてしまいます。それがナチスドイツによるユダヤ人狩りとその処刑を彷彿させるあたりが何とも息苦しい印象を与えます。
やがて憎鬼側と思われる武装グループが登場し、世界は憎鬼かそうでないかで二分されて対立していくといった展開が見られるも、ラストはやや半端な形で終わりました。
amazon見ると続編があるらしいとも書かれているので、続きがあることを匂わせた幕切れだったといえばそんな感じではありますね。

*1:憎鬼となるとそれを区別するのは人からの強い憎悪を感じ取るか否かというだけ