5期・11冊目 『狂鬼降臨』

狂鬼降臨 (ふしぎ文学館)

狂鬼降臨 (ふしぎ文学館)

内容(「BOOK」データベースより)
突如、現れた地獄の“鬼”により、地上は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄と化した。なすすべのない恐怖から、快楽を貪るだけの人間をたんたんと嬲り殺す鬼達。憎悪の文学を確立した傑作「狂鬼降臨」。誰一人死ぬことが不可能となった世界を描き、著者自ら「狂鬼降臨」の一環と語る「地獄の釜開き」。全身が腐る病、退廃病。男にのみ感染するこの病の感染源は女だった…「呪縛女」。飛び散る脳漿、溢れる体液、あなたは友成純一の世界を黙視できるか。

随分前から劇薬本として噂に聞く『狂鬼降臨』を読んでやろうと思っていていたのですが、収録されている『獣儀式』では入手しにくくて後回しにしていたのですが、最近探してみたらソフトカバー本で出ていることを知り、友成純一3作目にしてついに手を出してしまいました。それだけに非人道ぶりは半端ないっす。さすがに通して読むにはきつくて、何度か休み休みしながら読破しました。*1
レビューとはいえ、内容が内容だけに18歳以上で興味のある方のみどうぞ。




神と悪魔がその務めを放棄してしまったために、この世とあの世の境界が無くなり、地獄の鬼たちはわけがわからない内に現世に現れることになってしまった。とまどう鬼たちとしては今まで通り職務―亡者を嬲り殺すこと―を続行するしかないということで狂気(鬼)の世界*2の幕開けですよ。
突如発生した鬼たちによって抵抗虚しくたちまちのうちに崩壊する人間社会。そんな中で生き延びた複数の人物を通して描かれていく地獄模様です。
そこには人間の尊厳などひとかけらもなく、ただただ血みどろで汚物まみれで人体が乱れ飛んだり寄せ集って固まったりするぐちゃぐちゃで何でもアリな世界。ストーリーよりも人間の死に様に力入れているような内容で、その場面を想像するだけで痛みと酸っぱい何かがこみ上げてきそうです。


自暴自棄になって争い交わり次第に獣じみていく人間たちに対して、鬼たちにとって人間に対する感情などなく、ただ仕事上の対象でしかない。まるで人間が木を切ったり害虫駆除するみたいな感覚で人体をばらして鬼たちのもといた世界(地獄)を作っていく描写がなんともシュールです。鬼vs人間なんて構図はそもそも存在しない。
極めつけは第2章の人間飼育場。現世に出てしまったために人間と同様に3大欲を覚えてしまった鬼たちは、ただ殺すだけではなく養鶏場のように人間を建物に閉じ込め肥え太らせてから食すことを考え付く。そうか、ブロイラーを人間に当てはめるとこうなるのかという凄まじさですね。しかも学校で人気者の美少女が校舎の中で酷い目に遭い、彼女に憧れていたものの激しく軽蔑・嫌悪されていたブサメン虐められっこが一人無事で安全な場所から観察しているという展開がなんとも変態的。


あまりの人死にが増えたためか、定員オーバーな冥界から鬼に続いて亡者までもがこの世を徘徊し、更に世界が融合してしまったために死ねなくなってしまった人間たち。しまいには人間と鬼さえの区別すら怪しくなっていくのですけど、あえて言えば感情に支配されるのが人間の方でしょうか。まぁオチはよくわかんないです。とにかく世界は完成したらしいです。


半分以上は「狂鬼降臨」が占め、その内容が凄すぎて他に収録されていた作品の印象が薄くなってしまったのですけど、どれも狂気とかエログロとか人の死に様を書きたかったのだろうなと思わせる内容ばかり。「地獄の遊園地」は、アミューズメントパークの遊具たちが一斉に客に襲い掛かるというアイデアものなんですけど、これ著者本人ですらよく訴えられなかったなと思うほどモデルがばっちりわかるんですよ。あそこの徹底した演出に少しでも違和感を感じた人ならゾッとするかも。
「呪縛女」は性交の末に男性のみ全身が腐って死ぬ病気が蔓延する世の中で、女性を悪魔視し、山の手環内に男だけの聖域を維持しているという設定。男の城(なんかすごくいやだ)を守る孤独な警備員の顛末はお約束通り。
「蟷螂の罠」はストレスのあまりゴルフクラブを片手に暴走族を襲ってしまうサラリーマンという妄想じみた話。他と比べるとわりとおとなしい話だと思ってしまう。
「地獄の釜開き」は「狂鬼降臨」の外伝的位置づけで『ナイトブリード』と同様に無法地帯と化した福岡*3が舞台。人が死ななくなった世界で気儘にふるまう若者たちの話。死という安息を奪われた人間の醜悪さがこれでもかというほど出てきますね。なかでも”虫女”が極めつけにグロくて夢に出てきそう。


確かにこれを超える劇薬本を超えるのはそうそうないだろうなと思わせますな。

*1:大半を電車の中で読んだのだけど、下手な官能小説よりもヤバイ内容なのでちょっと視線が気になった(笑)

*2:鬼たちはいたって真面目で、狂うのは人間だけど

*3:著者の出身地のためか