8期・26冊目 『ザ・ウーマン』

ザ・ウーマン (扶桑社ミステリー)

ザ・ウーマン (扶桑社ミステリー)

内容(「BOOK」データベースより)
弁護士のクリスは、森でハンティングの途中、小川に浸かる上半身裸の女を見つけた。女は大怪我を負い、ひどく汚れていた。その野性丸出しの姿に魅せられたクリスは、罠を仕掛けて、女を捕らえる。クリスは自宅の納屋の地下室に女を監禁するが、それは家族をも巻き込む惨劇の始まりだった―。鮮烈なデビュー作『オフシーズン』、その続編『襲撃者の夜』のキャラクターを引き継ぎ、鬼才ケッチャムが気鋭のホラー映画作家ラッキー・マッキーとともに作り上げた衝撃作。後日譚となる短編「カウ」を併録。

『オフシーズン』『襲撃者の夜』と続いた「あの一族」*1のシリーズ続編です。
まさか昨年に続編が出ていたとは知らなかったのですが、このシリーズがケッチャムとの出会いだっただけに久しぶりに読めて嬉しいです。
『オフシーズン』(2007-06-24)
『襲撃者の夜』(2007-05-29)


前回の壮絶な戦いの末にウーマン*2一人生き延び、かつ体の傷を癒している最中を偶然目撃したのがハンティング中のクリス・クリーク。
その野性的な姿に魅了されたクリスは住まいとしていた洞穴を突き止めた挙句に罠を仕掛けてウーマンを捕獲するのですが、なんと自宅に連れて帰り、地下倉庫を改造して監禁してしまう。
そのうえ、わざわざ家族を連れてきて見せ、彼女を文化的な生活に戻すために世話するのだと宣言。
実際はそんな上品なものじゃなくて本音で言えば欲望を満たすために調教すると言ってもいいかもしれない。
弁護士であるクリスに家庭的な妻・ベルと3人の子(ペグ、ブライアン、ダーリーン)がおり、一見幸せそうな上流階層の家庭に見えますが、各人が抱えている闇のようなものが序盤から見え隠れしてます。
それがウーマンという異分子を抱え込んだことにより、表面上の穏やかさは消え去り、暴走してゆく。そのあたりの容赦の無さは傑作『隣の家の少女』を彷彿させるようでつい惹きこまれてしまいます。
なんといっても物語が進むにつれ、エリートの顔に隠されたクリスの化けの皮が剥がされてそのクズっぷりが際立っているのですが、家庭の和を優先するあまりに子供の犠牲を黙認した妻もたいがいですな。
現代に生きる私たちにとって、野生人であるウーマンは相容れない存在であるはずですが、解放されたウーマンが鮮やかにクリスらを斃してゆくシーンにはカタルシスを覚えてしまうのです。


もう一編の「カウ」は後日談となっており、リハーサルのために海岸を訪れた演劇グループがウーマンたちに襲われ、唯一生きて囚われの身になった男の視線で描かれます。
本編で生き残った姉妹がウーマンと合流して暮らしているのですが、ペグについては読書をしたりして文明的な面が残っているものの、すっかり馴染んでしまっているように見えます。
ウーマンを中心として生きるために機能化されたファミリーが描かれ、それは表面上は普通でも内部に深刻な軋轢を抱えた本編のクリーク家とは対照的なのが面白い。
そして彼らが生きる糧として人間を襲い解体してゆく様は凄惨な場面であるはずなのに感覚が麻痺してしまったのかそうと感じない自分がちょっと怖かったりしました。
そして男が己をカウ(家畜)だと自覚するくだりは何とも言えない倒錯した感覚。こういうのが読めるのはケッチャムくらいか。
ちなみに解説を書いているのがあの友成純一で、あまりにぴったり過ぎて笑ってしまいました。

*1:元ネタ⇒ http://ww5.tiki.ne.jp/~go_mad/ketchum/murder.htm

*2:20〜30代の成人女性であり、男性と変わらない身長と鍛え上げられた肉体を持つ