8期・25冊目 『ハーモニー』

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

内容紹介
ベストセラー『虐殺器官』の著者による“最後”のオリジナル作品<br> 21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は見せかけの優しさと倫理が支配する“ユートピア”を築いていた。そんな社会に抵抗するため、3人の少女は餓死することを選択した……。 それから13年後。死ねなかった少女・霧慧トァンは、医療社会に襲いかかった未曾有の危機に、ただひとり死んだはずだった友人の影を見る――『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。日本SF大賞受賞作。

アメリカより流出した核兵器が各地で使用され、相次ぐ暴動や内戦などによって世界中が大混乱に陥った「大災禍」。
その反動により先進国では国家の枠組みが消失し、生府と呼ばれる最高機関が人々の心体を健康を保つために徹底的に管理し、争いごとはもとより病気や怪我がほぼ無くなった”平和”な世界。
生府管理下では酒・煙草などの有害となりそうな物資*1は社会から排され、体内に仕込まれた「watchme」という機能がネットワークを介しておよそ体にとって害となるものを取り除いてしまうという。
安心感を与えるようにとピンク色で統一された都会、同じような食事を摂り、肥満も痩せすぎもなく体型や顔つきまでも似通った人々。
健康の名のもとにここまで社会から個性が消滅すると逆に怖さを感じます。
流行りの健康志向を極めるどころか、唯一の正義となった優しいディストピア世界とも言えそうです。


そんな世界に嫌悪を覚えた3人の少女はいわばハンガーストライキ的な行動に出るのですが、首謀者である御冷ミァハだけ死んでしまう。
13年後、死ねなかった一人である霧慧トァンは生府の螺旋上級監察官に就きながらも権限を利用して戦場を始めとする旧世界と行き来しながら酒や煙草を嗜む。
しかしそんな悪行がばれて日本に戻されてしまうのですが、旧友に会った際に目の前で自殺されてしまう。大量発生した自殺を皮切りに世界は再び混乱の渦に巻き込まれてゆくのです。
その影に死んだはずの御冷ミァハを見出したトァンは独自に捜査を始めるのですが・・・。


虐殺器官』で描かれた世界から繋がっているようでもあり、それでいて異質な印象を受けます。
やはり独特の世界観の構築、そして導入部から主人公を通して物語に没頭させてしまうあたりはさすがと言えますね。
etml*2という主人公が身に着けている通信機器を意識したような記述には最初戸惑ったけれど、読むうちに慣れました。
ただ物語の展開としては、唐突であったり不自然な点が目につきました。
情況は鮮やかに浮かぶのですが、どうも納得がいかないまま進んでいってしまった気がするのです。全体的なストーリーとしては決して悪くはないのですが…。

*1:カフェインでさえ制限されつつある

*2:詳しくは知らないが現在使われているhtmlの発展形なのだろう