10期・63冊目 『イカロスの誕生日』

内容(「BOOK」データベースより)
翼のある人がいる。空を飛べるだけでなく、なぜか、自由奔放な性格をも備えている。自在はるかは、そんなイカロスのひとり。だが、その気ままな生活は激変した。イカロスを社会の不穏分子とみなし、規制する法律が成立したのだ。はるかは、なにか不気味な勢力が動き始めたことを知る。追われたイカロスたちは立ち上がる。だが、事態は思わぬ方向へ。イカロスの歴史に新しい幕が上がる。

人類の中に空を飛べる人種・イカロスが存在する世界。*1
イカロスの性質として規律に縛られるのをよしとせず、勝手気ままに飛び回るために当局としては何かと扱いにくい存在でした。
女子高生の自在はるかも例にもれず自由奔放で、空港で飛行機の離陸を止めるわ、学校でも先生たちから逃げ回るわでお騒がせな生き方をしていました。
そんな中で唐突にイカロスの飛行を徹底的に制限、実質的に社会から排除する法律が成立。
はるかも大学の合格が取消され、友人との連絡も取れず、家の周りを警察が見張られるというまるで囚人のような状況に面します。
そこでつい最近知り合ったエアロテック社社長の助けにより、全国のイカロスが集って生き延びるための手段を図ろうとするのですが・・・。


すでに傑作SFを多数刊行している小川一水のデビュー間もない出世作ということで、実は15年も前の作品になります。たまたま書店でゆうきまさみイラストによる新装版を手にしました。
まだ携帯電話を持っていないはるかが友達と連絡を取るのに街の電話ボックスを使うあたりに時代を感じさせますね。
善悪がはっきりしている点と、反抗的なヒロインが障害を乗り越え、友情を育くみ、イカロスとしての成長を見せるといった展開から中高生向けな印象を受けますね。
そして社会の異物を排除しようとする体制と生存の権利を求めるイカロスという対立の構図に一つの「若さ」を感じないでもないです。
警察ならともかく、同じ日本人に対して自衛隊が出動して攻撃をする。見方によっては虐殺とも言える場面はちょっと非現実的で引きましたが。
だとしても今読んでも十分耐えうる内容だと思えます。
タイトルが「誕生日」とはどういう意味なんだろうと疑問に思いつつ、最後まで読んで納得でした。

*1:冒頭で日本国内では千人余とある