10期・64、65冊目『コブラの眼(上・下)』

コブラの眼〈上巻〉

コブラの眼〈上巻〉

コブラの眼〈下巻〉

コブラの眼〈下巻〉

内容(「BOOK」データベースより)
衝撃のベストセラー『ホット・ゾーン』から3年。プレストンが放つのは、エボラ・ウイルスを超えた戦慄。想像を絶する恐怖が、いまそこに!アメリカ、イラク、ロシアにおける生物兵器開発の恐るべき機密を暴露。

裕福な家庭の女子高生、そして地下鉄をねぐらにしているホームレスの男性。
最初こそ風邪に似た症状に始まりますが、次第に自身の唇を噛むなどの自傷行為と激しい痙攣を起こした末に死亡するという事件が続けざまに起こります。
女子高生の死体解剖を担当した研修医のアリス・オースティンはその遺体に見られた不可思議な現象が特殊な病気によるものではないかと疑い、その感染源を解明するために生前の足取りを追うことにします。
接点の無さそうな二人に共通する点は?また他に同じような死を遂げた人物がいたかどうか?
やがて犠牲者たちの接点としてコブラを模した手作りのびっくり箱が浮上。
それは新たに作られたウイルス散布の実験であり、近い将来に都市を標的にしたバイオ・テロが企てられている可能性が高いことからFBIの総力を挙げた捜査が始まるのでした。


以前読んだ『ホット・ゾーン』のリチャード・ブレストンによる生物兵器を取り扱ったフィクションになります。
『ホット・ゾーン』と本作はノンフィクション/フィクションという違いはあれどもどちらも著者渾身の取材の成果が活かされているのは確かです。
特に実際に何度も立ち会って取材したという死体解剖のシーンはリアル過ぎて、想像したくなくても病魔に冒されて変わり果てた脳や臓器が目に浮かんできてゾッとしましたね。
幕間に「陰の歴史」として冷戦期から湾岸戦争に至るまでの生物兵器開発の隠された経緯が綴られています。
そちらはほぼ事実をベースにしているだけあって堅苦しく感じる反面、終盤に近付くに連れて旧ソ連アメリカを遥かに上回る製造技術を有していたことやソ連崩前後にそれら巧妙に隠ぺいされて行方がわからなくなっていること(一部はイラクなど他国に流れている可能性)など衝撃の事実に戦慄します。
あくまでも示唆されているだけですが、その一部が本編のように大都市に使われる可能性を考えるととても怖いですね。


本編ではバイオ・テロ戦に対応するチームを編成、マスコミ対策や隔離上の理由からニューヨーク沖に浮かぶ離島に一気に本部を立ち上げて捜査や分析に奔走していく様が大変興味深かったです。こういった一大プロジェクトの立ち上げの決断の速さや実行力はアメリカのお国柄か。
しかし地道な調査が成果を上げる前に犠牲者が相次ぎ、状況は厳しくなってゆく。
結果的には捜査のプロでもないヒロインの活躍で犯人を追い詰めていくのはフィクションならでしょうね。一歩間違えれば大勢を死に至るウイルスを犯人が握っているだけにその追跡劇は最後までハラハラし通しで面白かったですけど。