6期・63〜64冊目 『CELL(セル)上・下』

セル(上) (新潮文庫)

セル(上) (新潮文庫)

セル 下巻 (新潮文庫 キ 3-57)

セル 下巻 (新潮文庫 キ 3-57)

内容(「BOOK」データベースより)
穏やかな陽射しが落ちる秋の一日、ボストン午後3時3分。世界は地獄へと姿を変えた。“パルス”。そのとき携帯電話を使用していたすべての人々が、一瞬にして怪物へと変貌したのだ。残虐極まる行為もいとわず、犠牲を求め続ける凶悪な存在に―。目前で突然繰り広げられる惨劇、街中に溢れる恐怖。クレイは茫然としていた。いったい何が?別居中の妻と息子は?巨匠の会心作、開幕。

ゾンビ・終末世界・親子の絆。スティーヴン・キングが新たに描いた作品のカギはもはや人々の日常に欠かせない道具となっている携帯電話。
今時珍しく携帯電話を持たない主人公・クレイは仕事で出かけたボストンにてこの怪現象に遭遇。さっきまで携帯電話で話していた人々が突如凶暴化して噛みつき、武器を振り回し、車で建物に突っ込む。
どうやら携帯電話から発せられる電波による影響により、連絡を取ろうとした人々が次から次へと人を襲う怪物に変貌していったのです。
のっけから容赦無いシーンの連続でつい引き込まれましたね。


クレイはたまたま携帯電話が壊れて持っていなかったトムや危うく難を逃れて合流した少女アリスと共に徒歩で混乱の街中を脱出。クレイには故郷メイン州に別居した妻と愛する息子がいることが気がかりなのですが、まずは一行はトムの家に向かいます。
この時点で都市機能は破壊尽くされて麻痺状態。徒歩で避難するものや、生き残った者同士で物資を巡って争いがあったり。
いわゆるゾンビパニックの王道的展開ですが、ここからがキングによる独特の味付けが加わってきます。
言語を失い凶暴化したとはいえ、彼らはゾンビではなくあくまでも人間(作品上では携帯狂人を呼ばれる)。当初はやたらめったら暴れていましたが、後に集団行動によって食糧の調達と一つの場所に集まって音楽を共振させながら休息という行動を見せるのですね。
彼らは単なる狂人からなんらかの進化を見せようとしているのか?


舞台はガイテン・アカデミーに移り、学長と生徒(ジョーダン)を登場させて携帯狂人の進化および対決を見せるという展開。クレイらがガス爆発によって数百人規模の携帯狂人を葬り去ったことで特別な存在、携帯狂人から「触れてはならない狂人」という扱いを受けるという皮肉。夢の中でたびたび登場するハーバード・シャツの男によって精神による介入を受けます。
中盤ではゾンビパニックから大幅に外れて、終末的様相の中でのクレイらの旅道中が中心。まぁクレイには遠く離れた妻子に会うという目的がある以上仕方ないですが、延々と続いたのは予想外。個々の描写は巧いのでつまらないってわけじゃないのですが、変な意味で先が読めないのです。
まぁここではコンピュータに詳しいジョーダンによる、人間の頭脳をハードディスクに例えて、まったく異質なOSを再インストールされたという表現がわかりやすかったですね。しかも個々の意識は薄れていき、リーダーらしき人物によって導かれる集合体としての存在に近づいていく。*1
その能力は正常人たちを超え、世界は携帯狂人⇒携帯人によって支配されようというバッドエンド的展開を示唆させるあたりがもう気になって堪らないですね。


で、結末はそれなりに用意されていてクレイ周辺の話としては綺麗に終わったと思うのですよ。
ただ世界的にはあれで決着がついちゃっていいのかなぁ?と気になってしまったのです。あとアリスをあんな風にあっさり死なせてしまったのは個人的に残念に思ったり。

*1:ワームに侵されて不具合を生じる携帯狂人までいるというおまけつき