5期・82冊目 『キャリー』

キャリー (新潮文庫)

キャリー (新潮文庫)

Wikipedia―キャリー(小説)あらすじ


アメリカ・メーン州にある町・チェンバレンにて起こった凄惨な事件。事件の報告書と交互して主人公の少女キャリーや周囲の人物たちの視点から状況を描いていく形式となっています。
心理的物理的に残酷な描写もあり、その内容はホラーとも言えますが、悲劇的すぎるキャリーの短い人生には同情せざるを得ません。既に事件が起こったものとして進んでいくので、途中でキャリーが良い方向に変わっていくことも破局への序曲と感じさせる。果たしてどうなってしまうのかという期待感はさほどでも無いものの、その巧妙な描写によって一気に読ませてしまうあたりはさすがですね。
あとがきによると、作者自身は失敗作だとしてゴミ箱に捨てておいた原稿を妻が拾って読んだことで、後にデビュー長編としてヒットし、しまいには映画化までされてしまったという。その後の活躍を考えると、人生なにが幸いするかわからないものですね。


それにしても、キャリーに対する少ない善意(クリスの父親の抗議を斥けた校長や庇った体育教師、それに舞踏会へ誘うようにトミーに依頼したスーザンも入るか)によって、クリスたちの悪意が一気に増大して事件を引き起こすことになるのが皮肉だと感じました。
それに念動能力(テレキネシス)の目覚めによってようやく狂信的な母親の抑圧を払いのけ、自分の思い通りの人生を送ることができるかと思い始めた時に、その力によって史上最悪の事件を起こすことにもなってしまった。
街中を災難と恐慌に陥れたキャリーが最後に会ったのが唯一悪意を持たなかったクラスメイト・スーザンだったのが救いではありました。