5期・81冊目 『リプレイ』

リプレイ (新潮文庫)

リプレイ (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら18歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は25年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持に。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また―。人生をもう一度やり直せたら、という窮極の夢を実現した男の、意外な、意外な人生。

何年か何十年か前に戻って人生をやり直せたら・・・というのは誰でも思いつく願望でしょう。
しかしそれがある時期に到達したら全てご破算になり、また最初から何度も繰り返されるとしたら?


主人公・ジェフはぱっとしないラジオ局のディレクターで離婚の危機にある43歳の男性。それがある日突然心臓発作に襲われ、気がつくと大学に入ったばかりの18歳の時点に戻っていた。しかも死んだ43歳の記憶のまま。
そうなると大学の勉強をまたやり直すのは苦痛でしかなく、記憶をもとに競馬や株の投資によって多大な富を築き、上流階級出身の妻に愛らしい娘を持つ富豪となる。いずれも前世では為しえなかったばかり。*1そのあたりは普通に考えられるシナリオなんですが、それはほんの序章に過ぎないんですね。
前世とまったく同じ日同じ時刻、再び死を迎えた主人公は18歳の自分に戻ってしまう(ただし前回とは微妙にずれている)。2回目のリプレイでは大学時代の恋人と結ばれ堅実な人生を送るのですが、またもや時が来ると過去へと戻されてしまい、前の人生で築き上げたものは全て無に返ってしまう。周囲は昔のままでありながら、自分だけ喪失感を味わって最初からやり直さなければならない気分はいかばかりか。まさに時の拷問としか言いようがないですね。


3回目になるともう主人公が自堕落な生活に陥ってしまうのも無理がありません。読む方としても主人公が麻薬に明け暮れるこのあたりの描写はちょっとだれてしまいます。
それが同じリプレイ・プレイヤーであるパメラが登場したことで、結果的に物語として大きく動き、新たな面白みが出てきました。
同じ境遇を持つ二人がこの特殊な現象について語り合うことで人生についての哲学や倫理観まで描かれて物語に深みを与えていますし、生まれ変わっても愛し合う二人の一風変わったロマンスも味わえますね。しかしリプレイするタイミングが二人の間で数ヶ月から数年へと大きくずれていくのが悩ましい。その時の相手に会えたとしても、前の人生の記憶を共有する相手ではなく、リプレイするのを待たなければならないのですから。


やがてリプレイを重ねるたびに死を迎えた歳に近づく。ジェフやパメラも本当の死を迎えるのかと思いきや意外な展開。何度もリプレイしたからこそ自分の人生を大事にしていこうという二人を応援したくなる結末ですね。
単なる娯楽としての時間遡行ものではなく、先のわからない人生だからこそ今を大事に生きていかなかればならないと読むものに思わせる、稀有な名作であると言えます。

*1:前世での妻との出会いには失敗したり、現世での妻とは子供の教育方針を巡って対立があったり、必ずしも思い通りの人生とは言えないが